――なるほど、それは仕方ない気がしますけどね。
松田 記憶の中に埋もれているというか。『もののけ姫』の時は「宮崎駿監督の作品だ!」と感激しましたが、出会いというか始まりである『風の谷のナウシカ』が日々と仕事のなかに完全に埋もれているんです。そういう状態だったので、台本をいただいても「素晴らしい作品じゃないか」ではなくて「なんだ、コレは?」でした。当時は高校生でちゃんと物事を理解できる年齢ではなく、「なんか、よくわかんないな」くらいのノリで。失礼な話なんですけど。
――やっぱり、仕方ない気がします。
松田 せめてもう少し大人であったら、台本を読んですごい作品だと思えたんでしょうけどね。だから、本当にもったいないことに当時の詳しい記憶がぜんぜんないんです。アフレコの際に宮崎監督からどういう指示を受けたとか、どういうふうに演出をしてらしたかを覚えていない。
高校生で演じたアスベルの「あの声はもう出ない」
――瘴気用マスクを着用している状態の声を表現するのに、底に穴を開けた紙コップのマスクを使ったことは覚えていませんか? 語り草になっていますが。
松田 いろんなことを試して紙コップに落ち着いたとか、そういうのは若かったゆえに面白かったので記憶にあるんですよ。でも、宮崎さんがどのように作品をとらえて演出をしていたとか、アスベルという役に対してどういった指導していたかということに関しては皆無に近いです。
――ご自身の演技って、いま観るといかがですか。
松田 まず声質そのものが現在と違いますね。あの声はもう出ないし、あの声の高さではしゃべらないし。それから、稚拙で何も考えていない感じがしますね。作品のことを理解していない。
「すごい作品に出させていただいたんだな」と思えたのは、だいぶ後になってから。アフレコの時点では、宮崎さんという人の容姿すら知らなかったんですよ。現場では録音演出の方が指示するわけだし。宮崎さんのフォルムを認識していなかったので、スタジオにいたかどうかもわからないくらいです。実にもったいないことをしましたね。
(#3に続く)