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記者会見で宮崎監督が目に怒りを

――1997年2月にアフレコが始まって、3月に赤坂プリンスホテルで制作発表会見がありました。そこで宮崎監督が、松田さんを起用した理由を尋ねられて目に怒りを表してスパッと答えたそうですね。

松田 あれには本当にシビれましたね。大規模な記者会見だったので、アニメーションや映画を専門にしていないメディアの方も多くいらしたせいか、キャスティングの話になると「これだけのメンツを揃えて、何で一番の主役が松田洋治なんだ」みたいなムードになるんですよ。誰もはっきりとは言わないけど、その雰囲気はありありとしていて。

 で、直球ではなかったと思うのですが、「なぜに松田洋治?」という質問が飛んだ時、宮崎さんが「アシタカという少年が単なる不良少年だったら、他にいくらでもいたんです。理由はそれだけです!」と答えたわけです。その記者の方をちょっと睨むぐらいの勢い、「なんか文句あるか」という感じで、そこでその話題をピシャッと打ち切ったんです。その瞬間に、「ああ、この方はこういうふうに俳優を守るんだ」と思って。

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「実力でどうのこうの」みたいな言い方じゃないんですよね。たとえば「有名な人じゃなくてもどうのこうの」だったら、僕がそうではないということを肯定することになるわけだし。横にいる僕を毅然と守ってくださったのには、シビれたの一言です。

©末永裕樹/文藝春秋

――いまだに「なぜ、僕がアシタカなんだろう」という疑問を抱いているとおっしゃっていましたが、そこでスッと氷解したのではないですか?(#1

松田 いえいえ。ご存じのとおり、明確な答えを言うような監督とプロデューサーではないので(笑)。まだ、引っかかっています。

 “最も売れていた”時期に『風の谷のナウシカ』へ出演

――『風の谷のナウシカ』についてもお伺いしたいのですが、こちらのアスベル役もアシタカ役の時のように「オーディションがあるよ」と言われたんでしょうか?

『風の谷のナウシカ』より。松田さんがアスベル(右)を、島本須美さんがナウシカを演じた

松田 いや、それはなかったですね。オファーをいただきました。ただ、『風の谷のナウシカ』に関しては、詳しくお話ができないんですよ。

 というのも、理由がふたつあって。ひとつめが、僕の俳優人生を振り返ってみても、最も忙しい時期、マスコミ的に最も売れていた時期であるということ。さらに高校もあったので、最も寝ていない時期でもあったんです。何があろうと朝5時半に起きて、一旦は学校に向かうというまったく余裕のない生活を送っていたものだから、当時のことをよく覚えていないんです。

 もうひとつは、そのころの僕はアニメーションに対してほとんど興味のない人間だったんです。今となっては失礼なんですが。だから、お話をいただいた時点では宮崎駿という名前を存じ上げていなかったし、原作の存在も知らずに読んでいなかった。