支援団体で身柄保護をしようものなら「誘拐」扱いに…
きょうだい間の虐待被害者を守る法律も制度も、支援策もなかった。知人であり、若者支援を行うNPO団体の理事に「どうにか助けられないだろうか」と連絡をしたところ、理事は「Aさんの相談をうちで引き継ぎますよ」と快い返事をくれた。私が「Aさんは今後、どういった支援を受けられるのでしょうか」と尋ねると、彼は心苦しそうに、厳しい現実を教えてくれた。
今の日本では、やはりAさんを保護できるような法律が存在していないこと。暴力を振るっているのが親ではないため、児童相談所や行政でも対応ができないこと。Aさんを家から逃がすつもりが親にないかぎり、下手に支援団体で身柄の保護をしようものなら「誘拐」扱いになりかねないこと。親が承諾しない限り、Aさんを支援する手立てはないこと。この国では、まだ私たちのような境遇に生まれた人間には逃げ道すら用意されていないのだと、改めて突きつけられてしまったように思えた。
「親御さんと話し合ったりできるようなら、なんとかできることをやってみます」。そう言ってくれた彼らの団体に支援を引き継いだため、それからAさんと私は連絡のやりとりをしていない。
きょうだい間の暴力、というとほとんどの人が「ただのきょうだい喧嘩」だと理解する。しかし、現実はそうではない。きょうだい間の暴力が深刻化しているケースでは、加害者側が成人とほとんど変わらない体格を有しているうえ、成人しても暴力は終わらない。むしろ激化の一途をたどることもある。それは多くの人が想像するよりもずっと残酷で、凄惨で、深刻な問題なのだ。