公開中の映画『東京リベンジャーズ2』が、前後編合わせて興行収入42億円を突破した。2021年に45億円を突破した前作に迫る勢いだ。原作コミックスは、全31巻の累計発行部数が7000万部を超える歴史的なベストセラー。なぜこの現代に、“特攻服にリーゼント”という昭和的ヤンキーが主人公のコンテンツが、これほどの大ヒットを記録しているのか。その答えにライターの加山氏が迫る連載「ヤンキー漫画と日本人」の最終回を一部公開します。(第1回第2回第3回を読む)

『東リベ』は時代劇

 前回までに『東京卍リベンジャーズ』がヒットした経緯やヤンキーマンガの歴史を紐解いてきたが、それらを踏まえたうえで、『東京卍リベンジャーズ』の躍進には“2つの発明”があったと考察する。

 ひとつは、ヤンキーマンガを“フレームとして”利用したという点にある。

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『東京卍リベンジャーズ』はヤンキー文化が衰退した時代に描かれた作品である。かつてのヤンキーマンガが最新の社会風俗としてヤンキー文化を描き、「現代の素描」としての側面を持っていたのに対し、『東京卍リベンジャーズ』はヤンキー文化を過去のものとして描いている。時代的にそうせざるを得ない部分はあるにせよ、この観点から見れば『東京卍リベンジャーズ』は時代劇ともいえよう。リーゼントと特攻服が、チョンマゲと和服にとって代わったわけである。

 テレビや映画の時代劇に出てくる人物はチョンマゲを結い、和服を着ているが、実際は江戸時代265年のあいだにもマゲの結い方や着物の柄に流行り廃りはある。しかし、「これは元禄期には存在しない」とか「幕末にこの小道具はおかしい」とディテールの時代考証に注目する視聴者は少数派であって、大半の視聴者はそこで語られる人間ドラマに熱中した。そのドラマで描かれたものは、主君や親に対する忠孝とか義理、さらには人情などの価値観や美意識であった。

 このように時代劇は、過去の時代背景をフレームとして利用することで、ともすれば現代社会では忘れられがちな価値観を表現してきた。テレビから時代劇が姿を消して久しいが、そこで語られた価値観までもが否定されたわけではない。

 これと同じように、『東京卍リベンジャーズ』は、80〜90年代のヤンキーマンガをフレームとして利用している。ヤンキー文化をリアルタイムで経験した当事者にとってはディテールのリアリティ(髪型や服装の流行など)が大事だが、それよりも、ヤンキーマンガが伝統的に語ってきた主人公像や価値観、美意識を現代に再現してみせたのだ。

 

映画『東京リベンジャーズ2』

『鬼滅の刃』でも採用されたシステム

 ではヤンキーマンガは、これまで何を語ってきたのか。

 それは、同じコミュニティ(グループ)に所属する者同士の仲間意識であった。「友情」である。

 実際に『東京卍リベンジャーズ』での具体例を見ていく前に、まずは東京卍會(東卍)の組織構成に着目したい。東卍は総長マイキー、副総長ドラケンの下、壱番隊から伍番隊によって形成され(初期)、各隊に隊長と副隊長が任命されている。このような複数プラトーンと「隊長+副隊長」の組み合わせは、『BLEACH』(久保帯人)の護廷十三隊や『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴)の鬼殺隊でも採用されたシステムだ。したがって『東京卍リベンジャーズ』のオリジナルな発明というわけではないが、いずれにせよ、このシステムは「隊長と副隊長の関係性を描写しやすい」という特性を持つ。