読者は自分の「推し」を見つけやすい
たとえば第67話「Man-crush」(第8巻収録)では、壱番隊隊長・場地圭介と副隊長・松野千冬の出会いが描かれる。場地が千冬に「ペヤング好き?」と語りかけるまでの一連のシークエンスは、作中でも屈指の名シーンだ。この回は本編の前日譚であるだけでなく、「血のハロウィン編」を締めくくるエピローグとしても、きわめて重要度の高いエピソードといえる。
第84話「Run errands」(第10巻収録)の、弐番隊隊長・三ッ谷隆が副隊長の柴八戒を「生まれた環境を憎むな」と諭すシーンは、本作を代表する名ゼリフとしてファンのあいだで人気が高い。あるいは第23話「Reseek」(第3巻収録)で、参番隊副隊長の林良平(ペーやん)がマイキーと対峙した際に「パーちん(※注:参番隊隊長・林田春樹)はオレの“全部”なんだよ!!!?」と叫ぶところも、隊長と副隊長の関係性を端的に示すセリフといえる。
「隊長+副隊長」の関係性はタケミチと敵対するサイドにおいても描写され、稀咲鉄太と半間修二、乾青宗と九井一、灰谷兄弟、黒川イザナと鶴蝶などの組み合わせが例として挙げられる。そして、隊長と副隊長のツーマンセル(Two man cell)にフォーカスした友情エピソードは、作中で幾度となく繰り返されていく。サブキャラクター同士の関係性をクローズアップすることにより、作品に群像劇としての機能を付与し、物語に厚みと臨場感がもたらされているのだ。そのおかげで、読者は自分の「推し」を見つけやすく、いわゆる「腐女子」当事者のブロマンス的な文脈から熱く支持されたことにも納得がいく。
また、関係性を語るハイライトシーンでの“決めゼリフ”にも特徴がある。「下げる頭持ってなくてもいい 人を想う“心”は持て」(第12話「Remind」第2巻収録)や「逃げてんのはオマエだけじゃねえ みんな弱ぇ だから家族(なかま)がいる」(第101話「Keep mum」第12巻収録)などに代表されるように、ワードチョイスのセンスにJ-POPの歌詞のようなテイストが感じられるはずだ。今風に言えば「エモい」フレーズであり、若い読者層に馴染みのあるフレーズは心に浸みやすかっただろう。くわえて、苛烈なアクションシーンの直後に浪花節的な“泣かせ”が入ると、暴力表現の残酷さが中和されるという作用も働く。
加山竜司氏による連載「ヤンキー漫画と日本人」全4回は、「文藝春秋 電子版」に掲載されています。
「ヤンキーを卒業したら半グレに」『東京リベンジャーズ』が再定義した“不良の世界観”