ここ数年、「日本史」を扱った小説や新書が大人のエンタメとして人気を集めている。歴史小説の名手・伊東潤さんは、新作『修羅の都』で源頼朝と北条政子を主役に据えた。テレビでも活躍中の歴史学者・本郷和人さんは、日本史を天皇、土地、宗教など7つの視点から読み解く『日本史のツボ』を上梓している。おふたりの該博な知識から日本史ブーム、これから注目の“歴史的事件”とは何かを探る対談。

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頼朝、政子の鎌倉ブームが来る?

『修羅の都』(伊東 潤 著)
『修羅の都』(伊東 潤 著)

伊東 今、日本史ブームといわれていますね。2017年は『応仁の乱』、『観応の擾乱』(いずれも中公新書)といった、日本史のテーマとしては、これまで人気が高いとはいえなかった南北朝・室町時代の歴史ノンフィクションがヒットし、磯田道史さんの『日本史の内幕』(中公新書)や本郷さんの『日本史のツボ』(文春新書)も多くの人に読まれています。

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『応仁の乱』などは、これまで知っているつもりで、実は知らなかったことを教えてくれるというところにヒットの秘密があるように思えます。一方、本郷さんの本は、天皇、宗教、土地、経済、女性といったテーマ別に掘り下げることで、歴史の流れ、特に事象ごとの変化の本質を捉え、これも教科書で知っているつもりでいたものが、実は知らなかったということを教えてくれました。

本郷 僕の本はともかく、知っているつもりで本当はあまり取り上げられていないというと、伊東さんの『修羅の都』(文藝春秋)で描かれている源頼朝と北条政子がまさにそうです。

 小説でも頼朝、政子を真正面から描いたものはかなり珍しいでしょう。

左から伊東潤さん、本郷和人さん ©文藝春秋

伊東 永井路子さんの『北条政子』(文春文庫)くらいですね。

本郷 あまりやる人がいない分野ですから、しっかり勉強してから執筆しようとすると時間的な労力がかかるし、永井先生が書き尽くしたことで、挑戦すること自体が難しいという側面もあるかもしれない。そうなると次は頼朝と政子からはじまる鎌倉ブームが来る?

伊東 私はそう思っています。鎌倉時代は、武士の世が始まった重要な時代にもかかわらず、一般的には、あまり知られていません(笑)。

本郷 僕は伊東作品ファンなのですが、歴史小説や映画として、特定の時代だけではなく、人気のある戦国時代や幕末はもちろん、室町時代や今作のような鎌倉時代を生きた人物を取り上げていて、これは作家として非常にチャレンジングな姿勢です。

伊東 恐縮です。私は日本史のあらゆる時代を取り上げ、日本人とは何かというテーマを掘り下げていきたいと思っています。これから出す作品では、最も古い時代のもので蘇我入鹿、最近のものとしては「よど号ハイジャック事件」をモチーフにした作品を予定しています。

本郷 伊東さんの作品には、現代社会に通じる視点も感じますね。たとえば、『修羅の都』でも、頼朝と政子という夫婦関係、あるいはふたりの子どもや兄弟たちを含めた家族関係、そして現代人として避けては通れない問題にも触れています。

伊東 私の強みは、歴史解釈力とストーリーテリング力がスパークする点にあります。作家は、歴史解釈では本郷さんのような研究者に敵いません。そこにストーリーテリングを加味することで読者を魅了せねばなりません。さらに仰せの通り、現代と共鳴できるテーマを盛り込めれば最高ですね。