戦国が主流だった歴史エンタメの世界に新しい波がおしよせている。取り上げられることの少ない南北朝がノンフィクションでヒットを飛ばす中、次のブームは「鎌倉時代」と予言するのが、作家の伊東潤さんと歴史学者の本郷和人さん。その面白さを語る対談の後編。

前編
http://bunshun.jp/articles/-/6475

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秀吉のせいでおねは本気が出なかった説とは

『日本史のツボ』(本郷和人 著)
『日本史のツボ』(本郷和人 著)

本郷 考えてみると、日本史上で源頼朝と政子は最強の夫婦ではないでしょうか。

 たとえば「御成敗式目」には、頼朝以下三代と政子様の決めたことは絶対で、変更してはならないという一文があります。慈円が「愚管抄」で、「女人入眼の日本国」、つまりこの国は女性が動かしていると評するほど、力をふるっていた。

伊東 歴史の中で対抗できる夫婦は、豊臣秀吉と北政所(おね)でしょうか。ただ秀吉は女好きが行き過ぎた(笑)。側室をもうけすぎたので、晩年は北政所との関係がぎくしゃくしてきます。秀吉の死後、関ケ原から大坂の陣にかけて、北政所も豊臣家を残すためにできるだけのことはしましたが、本気を出せば、もう少しやれたのではないか。そこまでできなかったのは、やはり秀吉に対する愛情を失っていたからではないでしょうか。その点、政子は頼朝の作った鎌倉幕府を残すために手段を選びません。

伊東潤さん ©文藝春秋

本郷 同じ時代の源氏のなかでは、木曽義仲と巴御前、源義経と静御前も非常に魅力的ですが、歴史的な実績、目指したものの大きさという点では、やっぱり頼朝と政子のほうがはるかに格上でしょう。そういう意味でも、日本史上最強の夫婦はやはり頼朝と政子ではないか。

伊東 その通りですね。実は今回の対談で、本郷さんにぜひお伺いしたかったのは、本郷さんから見た頼朝と政子の実像です。

本郷 世間一般のイメージでは、頼朝といえば冷酷無比。それはやはり実弟であり平家滅亡の最大の功労者ともいえる義経を殺しているからでしょう。それが不人気にもつながっているのですが、だけど僕はむしろ義理堅い人だったのではないか、と考えています。

伊東 「吾妻鏡」の中にも、確か畠山重忠だったと記憶しているのですが、「かつては一緒に酒を飲んだ仲だったけど(頼朝と)距離が出来て寂しい」というエピソードが登場しています。これは頼朝が、普通の人だったことを如実に表しているものだと思います。