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「こんな場所で6時間も待つなんて正気の沙汰ではない」考古学者が発掘調査をしていてすれ違った“強盗らしき男”の正体は…?

「こんな場所で6時間も待つなんて正気の沙汰ではない」考古学者が発掘調査をしていてすれ違った“強盗らしき男”の正体は…?

『考古学者が発掘調査をしていたら、怖い目にあった話』より #3

2023/10/09

genre : ライフ, 社会

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都会と田舎

 ペルーの都市部では、マジメさを表に出していては少々生きにくい。抜け目のなさやずる賢さすら肯定する植民地時代以来の伝統的な価値観が残っている。外から眺める外国人だけでなく、一般のペルー人や知識人層も自嘲気味に説明することがある。たしかにそういう面はあって、ペルーで生活したことがある者ならば、誰しも一度は身をもって実感している。そしていったんそんな社会に慣れると、抜け出したくてもなかなか抜けられない。外国人もペルー色に染まっていく。

 美しいペルー人女性と結婚して長年リマに住んでいるドイツ人教授がいる。私がペルーに留学したときの受け入れ教員であり、敬愛する考古学者である。この大先生を我が愛車の助手席に乗せてリマ市内を運転していると、よく助言をいただいたものである。

「そこっ! 突っ込め! 割り込め! 永遠に進めないぞ!」

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 信号のない交差点や大通りへの合流地点では、日本ならば交通ルールに則って順番を守ったり、譲り合うことで、比較的すんなり進める。車間距離もそれなりに空く。しかしペルーの大都市では、ただ交通ルールを守るだけではまともに運転できない。

 気を抜くととんでもないところから割り込まれる。少しでも車間距離をとると割り込まれる。とにかく隙を見せたら割り込まれる。だから前の車にベタ付けする。逆にこちらから割り込まないと進めないところでは、なにはともあれ車の鼻先を突っ込ませる。気迫が肝心である。

都市部と農村部では犯罪のレベルが大違い

 リマでの運転はストレスフルで、とにかく疲れる。みんながルールを守ったり、譲り合ったりすれば、みんなの運転ストレスが減り、誰もが目的地に早く着くだろう。たぶんみんなわかっている、けれどできない。自分だけがマジメになれば、自分だけが損をする。まさに「囚人のジレンマ」を地で行く日々なのである。

 地方に目を移すと、県庁所在地などの大都市部を除けばびっくりするほどのんびりしている。

 ペルーの田舎は車そのものが少ないこともあって運転は楽しい。僅かな時間を惜しんでせかせかするような人は少数派である。その一方で、みんな感心するほど良く働く。そして公平性を重んじる空気がある。もちろんユートピアではない。抜け駆けを良しとせず、出る杭は打たれる。成功者は噂と陰口の標的にされてストレスを溜める。しかし昔ながらの地元有力者には敬意が払われる。なんだか日本のどこかを見ているかのように錯覚してしまう。

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