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「こんな場所で6時間も待つなんて正気の沙汰ではない」考古学者が発掘調査をしていてすれ違った“強盗らしき男”の正体は…?

「こんな場所で6時間も待つなんて正気の沙汰ではない」考古学者が発掘調査をしていてすれ違った“強盗らしき男”の正体は…?

『考古学者が発掘調査をしていたら、怖い目にあった話』より #3

2023/10/09

genre : ライフ, 社会

note

 犯罪も都市部と農村部では大違いである。都市部では盗みに入る店舗の警備員とグルになって首尾よく売り上げをかっさらっていく空き巣や強盗がいる。スリにいたっては、よくもまあこんな方法で! というあきれた芸当を見せる達人もいる。

 一度聴いて忘れられないテクニックは「釣り」である。人混みの中ですれ違いざまに標的の上着やズボンのポケットに小さな強力磁石を投げ入れる。磁石には釣り糸が結び付けられている。人混みに隠れて糸を手繰り寄せ、硬貨の塊をせしめるというものだ。実は、ペルーの硬貨の中で最も高額な5ソーレスと2ソーレス硬貨だけが磁石に付く。そしてお金を財布に入れない人が少なくないため、結構な額を集められるわけである。

都会で揉まれた知能犯が小さな町ごと騙すことも

 他方、田舎の犯罪は、通常ひと気の少ない時間帯に行われる。家畜どろぼう、収穫物どろぼう、強盗などである。日没後だけでなく、意外と早朝も危ない。私が発掘の拠点にしている人口2000ほどのネペーニャの町は、田舎の中でも特に治安の良いエリアである。それでも町外れの街道沿いでは、明け方に強盗が出没することもあるそうで、用心するように町の人が警告してくれる。だから私が率いる発掘調査は朝の7時にスタートする。遺跡は街道沿いの耕作地の中にあるから、薄暗くひと気の少ない6時頃はちょっと怖いのである。

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 都会で揉まれた知能犯が田舎に流れてくると、小さな町ごと騙されることもある。ネペーニャでも、偽の出稼ぎブローカーによる集団詐欺事件が発生している。日系人を騙(かた)る男がやってきて、この町で恋人まで作って馴染んできたところで、集めた金とともに消えたそうである。

 日本への出稼ぎを望む者が多かった90年代らしい詐欺である。

予見された強盗

 また前置きが長くなってしまった。大学院を出てから数年間はペルーを研究と生活の拠点にしていたので、1回の発掘に3か月以上かけることもできた。発掘は毎日が発見の連続で真剣勝負といえば確かにそうなのだが、長丁場では緊張感が続かずにチームの士気が落ちてくる。だから週末の過ごし方が大事なのである。有名な考古学者の訪問を受け入れたり、まだ誰も発掘したことのない面白い遺跡を見に行ったり。みんな若く体力もあったので刺激的なアクティビティを詰め込むのが常だった。

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