なぜヤクザの組長は“山”を所有するのか? その意外な理由を、ヤクザの組長の息子視点で、ヤクザ社会を描いた若井凡人氏によるエッセイ『私は組長の息子でした』(彩図社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)
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なぜ組長は“山”を持っているのか?
けん銃は手に入れたからといって、すぐに使えるようになるわけではありません。
「若、西部劇の映画なんかを見ると、主人公のガンマンが銃を適当に撃って、バンバン当てたりしているでしょ。あんなのウソですよ。ちゃんと練習しないと全然当たりまへん。撃つだけ弾のムダですわ」
けん銃はそのままでは宝の持ち腐れで、武器として役立てるには、それなりに射撃訓練を積まなければならないようなのです。
私はその現場に連れていってもらったことはないのですが、父の組でも組員を対象にした射撃訓練が行われていました。
韓国やグアムなどにある、実弾使用の射撃場で練習させる?
いいえ、違います。“山”にこもるんです。
「オヤジ、コイツ(=若い衆)にそろそろチャカ(=けん銃)を教えなあかんので、ちょっと“山”に行ってきますわ」
ヤクザが“山”というと、なにかの隠語のように聞こえますが、ここでの“山”は正真正銘の山林のこと。人里離れた山林は、言うなればやりたい放題の無法地帯です。自分たちで所有していれば“私有地”ですので、他人は勝手に入れませんし、たとえ銃声が漏れたとしても猟師が撃ったといえばごまかせます。
第二章で、私は父とよく山に遊びに行ったと書きました。実はその山こそが、組員たちが射撃練習をしていた“山”だったのです。
さて、その山の奥深いところで組員たちは射撃の練習をしていたわけですが、本当に周囲の人家などにバレることはなかったのでしょうか。
私は案外大丈夫だったのではないか、と思っています。というのも、実際の銃撃音は意外と軽いからです。