文春オンライン

戦前の日本では「人肉の刺身」が食べられていた…明治・大正期の新聞が報じた「遺体損壊事件」の意外な背景

source : 提携メディア

genre : ライフ, 歴史, 社会

note

「約375グラムの脳漿を10円で売った」証言

棺(ひつぎ)をあばく穏亡 死人の脳漿(のうしょう)で金もうけ 函館五稜郭焼き場の怪

「火葬場の穏亡焼きが死人の脳漿を取って売ったり、また金のかけらをひそかに盗んで、これを指輪等にして売り飛ばしたという、近来にない怪事件があった。

この穏亡焼きは、函館市五稜郭の市営火葬場の漆谷健吉(二四)で、同年三月中に肺病患者の親族から依頼され、五十歳くらいの男の死体より約百匁の脳漿を取り、これを十円で売り、親族は医師に内緒で、約十回にわたって患者に服用させたが、去月十八日死亡してしまった。このことが函館署の耳に入り、取り調べたところ、以上の事実が判明した。この他にも、火葬灰の中から金のかけらを集め、現在まで一個三匁ないし四匁の金指輪六個を作り、このうち一つを四十五円で売り飛ばしたことも判明し、なお余罪がある見込みで、厳重取り調べ中」(「北海タイムス」昭和7年12月8日)

ADVERTISEMENT

函館市五稜郭の市営火葬場の漆谷健吉(24)が、肺病患者の親族からの依頼で、50歳くらいの男性の遺体から100匁(約375グラム。1匁は3.75グラム)の脳漿を取って、10円で売った。

それ以外にも、火葬場の灰の中から金を集めて、「三匁ないし四匁(11.25グラムから15グラム)」程度の指輪を6つ作り、一つを45円で売ったという。

「金本位制」導入で金価格が高騰していた

昭和5年(1930年)に再導入された「金本位制」により、金価格が高騰していたことが間接的な原因と思われるが、近年も金が高騰し「1グラム=1万円」が視野に入ってきており、当時と不思議にシンクロする。

また密売に手を染めた隠亡が、急に羽振りがよくなり、不審を抱かれて逮捕に至る事件も、いくつか報じられている。

花柳界に出入りして密売が発覚

脳漿をとって密売の穏亡 花柳界(かりゅうかい)に出入りして豪遊

「岐阜県高山町営火葬場の穏亡、可賀幸太郎(二四)は、昭和三年七月、父太助死亡以来、父のあとを受けておんぼうに雇われたが、父太助の時代から死人の金入れ歯を抜き取り、なお脳漿をしぼって相当手広く密売し、不当の利益を得ていた嫌疑が濃厚となり、最近、花柳界に出入りし豪遊を極めているので不審を抱き内偵を進めた結果、右の事実が判明した」(「小樽新聞」昭和5年5月16日)