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戦前の日本では「人肉の刺身」が食べられていた…明治・大正期の新聞が報じた「遺体損壊事件」の意外な背景

source : 提携メディア

genre : ライフ, 歴史, 社会

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岐阜県高山町の火葬場の火夫が、花柳界に出入りして豪遊しているというので、警察にマークされ、死人の金歯や脳漿を密売していたことが発覚した、という。

122体以上の遺体損壊が発覚

この手の犯罪が広く世間の耳目(じもく)を集めたのは、昭和8年に露見(ろけん)した次の事件だろう。

脳漿と金歯抜き取り 百二十二死体発掘 遺族に替え玉を使って誤魔化す 桐生火葬場の怪事件

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「桐生火葬場裏から、去る十四日、男女の死体が発見され、桐生署では右は脳味噌および金歯金指輪目当ての穏亡の所為と睨(にら)み大活動の結果、元同火葬場の人夫、松江勘次郎(四五)を引致(いんち)、(中略)さらに火葬場の内外の空き地を片っ端から掘り返し捜索につとめたが、十六日も午前八時から西南隅一帯にわたって掘り返したところ、驚くべし、午後四時までに八十五体の死体を発見。これに十五日の分を合して合計百二十二体となり、(中略)松江は十六年間、右火葬場に雇われていたが、最近不評のため三月三十一日限り解雇されたが、(中略)十六年間に手にかけたこの種の死体は相当多数に上る見込み(後略)」(「北海タイムス」昭和8年4月17日)

群馬県の桐生火葬場から計122体もの男女の遺体が発見されたという。火葬場の火夫である松井(「松江」は間違い)勘次郎が、妻と共謀して長期間にわたり、遺体損壊および貴金属の窃取を繰り返していたらしい。

頭蓋骨に拳大の大穴があけられ、骨盤に肉片が付着…

翌4月18日に出された続報では、発掘された死体は計150体に増え、「火葬場付近を掘ればなお続々死体が出る有様で、当局においても今更ながら驚愕(きょうがく)している」と書かれている。

19日になると、発掘死体は200体を超えた。それらは「頭蓋骨に拳(こぶし)大の大穴があけられ、骨盤に肉片が付着したものもあり」という凄惨(せいさん)なもので、「現場には縄を張り巡らし発掘を継続中であるが、現場には数百名が押しかけ大騒ぎである」という。