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アイオンは勝てるか

 “日本発”だが実用化や普及で韓国や中国に遅れを取った技術は多い。液晶やリチウムイオン電池はその代表格だ。繰り返される“敗戦”を政府は問題視し、特定技術をオールジャパンで支え、国際競争力を維持しようと躍起になっている。

 現在、最も期待されているのが、NTT(島田明社長)の開発する次世代通信技術「IOWN(アイオン)」である。

 今の通信は使い勝手のよい電気信号を使っている。だが電気信号は光から電気に変換する際にエネルギーロスが発生する。消費電力が増えたり遅延が発生したりするのはこのためだ。

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©アフロ

 一方、アイオンはネットワークから半導体の内部まですべて光技術で情報を伝達する仕組み。技術が確立すれば消費電力は現在の100分の1、伝送容量は125倍、遅延時間は200分の1に抑えられるという。

 この光通信基盤技術で日本は頭一つ抜けている。そこで政府は2030年頃に世界で商用化が見込まれる通信規格「6G」を支える中核技術にしようと目論むが、懸念されるのが「NTTの『自分たちだけで出来る』と考える体質」(通信業界幹部)だ。

 最近、それを象徴する出来事があった。NTTは6月、アイオンを普及させるため、新会社・NTTイノベーティブデバイス(塚野英博社長)を設立したと発表。資本金は300億円でNTTの全額出資だ。問題は、NTTはアイオンの普及で共闘するためKDDI(髙橋誠社長)と提携していること。しかし、新会社設立にあたってKDDIは蚊帳の外に置かれたのだ。「あの提携は何だったんだという声が社内にある」とKDDI幹部は憤る。

 この体質は「NTTの澤田純会長の性格によるところが大きい」と通信業界の関係者は指摘する。

 澤田氏は京都大学卒業後、電電公社に入社。関連会社副社長などを経て、18年に社長に就任した。豪腕で知られ、海外事業の再編、NTTドコモ(井伊基之社長)の完全子会社化などを持ち株会社のトップとして断行。21年には総務省の官僚に高額接待を行っていたと『週刊文春』に報じられたが、どこ吹く風。22年、同社の歴史の中で約30年ぶりに、代表権のある会長職に就任したのだ。

 アイオンへの思いも強く、自らが監修する『IOWN構想―インターネットの先へ』という本を、NTT出版から出してもいる。

 ただNTTイノベーティブデバイスの件に代表されるように「オールジャパンの発想がない。本来は半導体メーカーや部品メーカーと手を取り合わないといけないのに……」(総務省幹部)。技術敗戦がまた増えてしまいかねない。

丸の内コンフィデンシャル」全文は、「文藝春秋」2023年9月号と、「文藝春秋 電子版」に掲載されています。