“ワースト謝罪会見ランキング”というものがあるとしたら、間違いなく2023年のトップに輝くであろう会見が7月25日に開かれた。開いたのは、保険金不正請求問題をおこした中古車販売大手ビッグモーターの兼重宏行前社長ら経営陣だ。
今回の会見はネットでも報道でも非難を浴びているが、「経営心理コンサルタント」として多くの記者会見を見てきた筆者には、兼重宏行前社長が抱える歪んだバイアスの数々が何よりも印象に残った。
「成功したら自分のおかげ、失敗したら他人のせい」
保険金の不正請求問題を認識したのはいつだったかという質問に、兼重氏は「(調査報告書が提出された)6月26日まで知らなかった」と答えた。その後も「報告書を受けて、本当、耳を疑った」「他の経営陣は知らなかった」と知らぬ存ぜぬで、「ありえんです。本当に許しがたい」と社員に責任を押しつける姿勢を貫いた。
これは『自己奉仕バイアス(セルフサービング・バイアス)』と呼ばれる心理的傾向が強いと思われる。
このバイアスは、「成功した時は自分の能力や努力のおかげだと思い、失敗した時は他人や環境のせいにする」というものだ。兼重氏の会見には、この傾向が顕著に表れていた。
話し方や表情からも、兼重氏の自己奉仕バイアスは強くうかがえる。単語ごとにはっきり区切って話し、語気も荒く命令口調。謝罪会見のはずなのに、どこか偉そうで不遜な印象を受ける。
社員の責任を追及する時は苦笑いのような表情を浮かべ、「告訴する」「罪は償ってもらわないと」と、守るべき存在であるはずの社員を糾弾する言葉を連発。
一方で自らの責任や関与については「本当に」「全く」「一切」と強い言葉で否定を繰り返した。しかしさらに追及されるとどんどん声が小さくなり、言葉を濁し、語尾が消え、口ごもる時もあった。「反省している」とは発言したものの、言葉通りに受け取った人はどれほどいただろうか。