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 兼重氏自身が権力をふるってきただけに、“力”には敏感だ。今回の不正請求を報じたメディアに対し「今回はびっくりしました。メディアの力は凄いな。影響力は半端ないなとものすごく感じました」と苦笑いしながら発言している。

 この場で、この状況でわざわざメディアの力をすごいと発言する。それは力に対する執着や憧れ、恐れがあるからだろう。兼重氏の息子で副社長だった宏一氏も、影響力を行使していたという話も聞こえてくる。兼重親子にとって力は何よりも重要かつ価値のあるものだったのだ。

 それでも自分の力はまだまだ衰えていないという自負はあるようで、「昔からご支持いただいているお客様がたくさんいますから、影響はあるはあるのですが一定の収益は確保できております」と強気の発言も飛び出した。

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新社長の謎の“兼重氏アゲ”発言の意味は

 この会見では、兼重氏の後を継いで新社長に就任する和泉信二専務取締役が兼重氏を褒めたたえる発言をしたことにも驚いた。

右が新社長に就任する和泉信二氏©時事通信社

「弊社は、創業者の兼重宏行のリーダーシップと、その卓越したビジネスモデルにより、いまや業界を代表する企業となりました」

 続けて「あまりにも強すぎるリーダーシップに頼りすぎていた」「行きすぎた業績管理、不合理な目標設定、頻発する降格人事、こういったものにより徐々にいびつな企業風土を作ってしまった」などと発言したが、「卓越したビジネスモデル」という表現とのギャップはあまりにも大きい。

 謝罪のための会見で、その当事者である兼重前社長を褒めた経営陣の内にも強いバイアスが見てとれる。それが『ミルグラム効果』だ。

 ミルグラム効果とは「善良で平凡な人間でも、権力者や権威者に命令されると非人道的な行為にも手を染めることがある」という権力に対する服従傾向のことを言う。

 兼重氏が不正の原因の1つとして「経営陣に盲従し忖度するいびつな企業風土」をあげたが、和泉新社長の発言は、まさにミルグラム効果がビッグモーター社に蔓延していたことを示している。