日本経済の中心地、東京・丸の内から“マル秘”財界情報をお届けする人気コラム「丸の内コンフィデンシャル」。月刊「文藝春秋」2023年8月号より一部を公開します。
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不正の裏に損保の影
「経営陣は知らなかった」
7月25日の会見で、中古車販売大手・ビッグモーターの兼重宏行社長は不正疑惑についてこう言い切った。また自身と長男の兼重宏一副社長は辞任し、経営に関与することは「一切ありません」と語った。和泉伸二専務が後任の社長に就いた。だが、騒動は一向に収まる気配を見せない。
事故車に傷をつけたり、不要な部品交換をしたりし、自動車保険の保険金を水増し請求していた同社。手口も悪質で、工具で傷付ける、靴下にゴルフボールを入れて車体を叩くケースなども話題となった。
同社の不正はもとより、損害保険会社との関係も問題視されている。ビッグモーターが取り扱う保険料は自賠責と任意の自動車保険合計で、年間約200億円にのぼる。中でも“蜜月”とされるのが損保ジャパン(白川儀一社長)である。同社は保険代理店契約の幹事社を務めており、11年から計37人をビッグモーターに出向させている。出向者について兼重社長は「損保側が不正に関与することは一切ない」と明言したが、「出向者は自動車保険の不正請求が横行していた時期、修理部門の担当部長を務めていた」(金融庁関係者)とされる。兼重副社長が損保ジャパンの前身企業に在籍していたことも明らかになった。
損保各社はビッグモーター社員による内部告発を受けて22年6月に事故車の紹介を停止した。だが損保ジャパンだけは翌月に紹介を再開しており、金融庁も注視しているほどだ。
報道ではあまり注目されていないが、取引銀行の3メガバンクと広島銀行(清宗一男頭取)が懸念しているのが、ビッグモーターのガバナンスの杜撰さだ。
「特別調査委員会の報告書でも指摘されているが、取締役会が開かれておらず、議事録も無い。コンプライアンス担当役員もいなかった」(メガバンク幹部)
会社法で最低3カ月に1回は取締役会を開催しなければならないと規定されている。兼重社長の個人商店だったことの証左である。
7月25日には損保ジャパンの白川社長もぶら下がり取材で「もっと調査すべきだった」と反省。さらに同社にとって痛手なのが、損保ジャパンの櫻田謙悟グループCEO兼会長が、問題が取り沙汰されている時期、経済同友会代表幹事も務めていたこと。「経済三団体の長として、大丈夫なのか」(財界関係者)との声も囁かれている。