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 5月中旬のことだ。PayPayドームで開催される2軍戦取材のため、私はドームに訪れた。最終日は1軍が移動休みの日で、ちょうど裏の通路で仙台帰りの栗原選手に遭遇した。私自身、ここ2年くらい筑後取材がメインなので、栗原選手が1軍に復帰した今季、顔を合わせるのはこの日が久しぶりだった。「身体は大丈夫ですか?」などとちょっとした近況を会話することが出来た。

 いつも通り元気に応えてくれた栗原選手だった。すると、そこにたまたま通りかかった藤本博史監督が「くり! 休める時は休めって言ったろ~」と声を掛けた。移動休みながら、栗原選手がドームを訪れていたのはトレーニングと練習をするためだったのだ。何度も言うが、怪我明けのシーズン。焦る気持ちもわかるが、無理をしてぶり返してしまうのではないかという心配だってあったはず。それでも、栗原選手はタフに練習を重ねた。とにかく練習量がすごいという話は耳に入ってきていたが、昨季の悔しさ、今季にかける思いがヒシヒシと伝わってくる。だからこそ、応援していたし、栗原選手が活躍すると嬉しかった。

 だから、再び怪我で離脱を余儀なくされたことが悔しくて残念でならなかった。栗原選手の気持ちを思うと、何ともやるせない。昨季もダメージは大きかっただろうが、今回は「何でまた……」と思ってしまった。

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“帰る場所”があることを示し、励ましたかった石川柊太投手

「栗原選手、大丈夫かな?」と気になっていたら、チームメイトの石川柊太投手がSNSに栗原選手の様子をアップしてくれた。

石川投手のInstagram


「あなたの帰りをみんな待っている」

 優しいエールだった。栗原選手は、この投稿をストーリーズで引用し、「やるしかない!!!ありがとうございます。」と発信した。

 このことについて、石川投手に話を聞いた。「苦しいと思うけど、存在意義というか、帰る場所はあるんだよっていうのをチームメイトとして示したかった」と石川投手は込めた思いを教えてくれた。

「くりは自分が苦しんでる時も『背負いすぎっすよ』とか『もっとこっち(野手)に責任擦り付けていいんですよ』『僕が打ってないから』とかって言ってくれてたんです」と今季のやり取りを明かす。石川投手も、今季は負けが先行し、なかなか結果が出ずに苦しんだ。2軍で再調整もしたし、試行錯誤してきた。そんな中で栗原選手が掛けてきた言葉は、石川投手を勇気づけたことだろう。

 試合中も、マウンドに声を掛けにきてくれたし、2人で試合を振り返ったり野球談議をすることもあったという。結果が出ない時も「良くなるために内容をつきつめて行こう」と励ましあった。結果が出ても出なくても、共にやるべきことを黙々とやってきた。すると、石川投手はノーヒットノーランの偉業を達成した。その時、三塁には栗原選手がいたし、本塁打を含むマルチ安打で偉業を後押しもしてくれた。

 そんな栗原選手が再び怪我で戦列を離れた。石川投手は言う。「一番苦しいのは本人。頑張るのも早く治すのも当たり前だけど、波はあるし、自分の中ではやっぱり悲観してしまうと思う。結果が出ないのは自分の実力不足だけど、怪我ってその議題にも上がらないくらい切ない。不運もあるしいろいろあるけど、怪我って実力で勝負することすら出来ないんで切ないですよ」。第一線で戦っている選手の言葉には重みがあるし、胸がキュッとした。

 だからこそ、“帰る場所”があることを示し、励ましたかった石川投手。もちろん、石川投手だけではない。他のチームメイトもそうだろうし、ファンの皆さんもそうではないか。私もそうだ。たくさんの人に愛される栗原選手には、心強い仲間がいるのだ。

 遡れば、プロ1年目から怪我に泣くことは少なくなかった。入団してすぐに怪我をした時には、お母さんが心配して地元の福井から当時寮のあった西戸崎まで様子を見に来たほどだった。波乱万丈のプロ野球人生かもしれないけど、その中で大きく成長してきたのも事実。こんなにたくさんの壁が立ちはだかっても、挑み続け、越えてきた栗原選手。今回の壁を越えたら、もっともっと強くなるに決まっているじゃないか! この離脱は苦しいけれど、むしろこれからの栗原選手が歩む道を楽しみにしたい。負けるな、頑張れ! あなたの帰りをみんな待っている。

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