8月の終わり、ファイターズは今季、ZOZOマリン最終戦(ロッテ22回戦)だった。西武の失速もあってチームは5位浮上、このロッテ3連戦はワンチャンCS進出を狙うなら絶対に勝ち越しておきたいシリーズだった。火・水で1勝1敗、決戦の木曜日、ファイターズは2軍から上げたばかりの田中瑛斗を先発に立てる。継投で目先を変え、狙いを絞らせないゲームプランかと思われた。もちろん田中瑛斗がイニングを食ってくれたら大収穫だ。鈴木健矢、北山亘基、金村尚真といった先発陣の復調が待たれるけれど、田中瑛斗が一枚加わってくれたら言うことない。

 だけど、瑛斗は3点リードしてもらったのに、3回1/3(86球)、被安打6、四死球5、失点4とピリッとしなかった。チャンスだったんだけどなぁ。まぁ、北浦竜次、山本拓実、福田俊と継投陣が踏ん張って試合は壊さずにすんだ。それどころか5回表、上川畑大悟のタイムリーでスコアは4対4の同点だ。さぁ、7、8、9回、野球で最もコクのある終盤の競り合いが始まる。

ここでロドリゲス出して大丈夫だろうか

 ファイターズは7回表、西村天裕(この日、NHK「おはよう日本」で取り上げられた)に三凡に切り取られ、その裏、ロドリゲスがマウンドに立つ。ブライアン・ロドリゲス。ドミニカ共和国出身、ファイターズ6年目の右腕。2018年の開幕投手を務めるが、先発では結果を残せず、主にリリーフで活躍。2021年にはキャリアハイの24ホールドをマーク。今シーズンは1勝4敗12ホールド(8月30日時点)。

ADVERTISEMENT

 その瞬間、胸騒ぎがした。いやな予感。

 言っておくが、僕は彼の名前キーホルダーを購入するほどのロドリゲス好きだ。来日して早々、有原航平、上沢直之2人のエース格にはさまれ、「どっちも選べない~」となった、当時の栗山英樹監督から中立地帯(?)として開幕投手を指名され、3回途中8失点して負け、そこから1ヶ月登板がなく、初勝利が8月末だったというエピソードも含め、大変気に入っている。外国人選手なのにたった1人で国頭の2軍キャンプで調整していたこともあった。何となく扱いが雑なのだ。ナイスガイなのだろう。頼まれると何でも引き受けてくれるタイプ?

 だから、そんなロドリゲスのリリーフ登板を(一瞬でも)僕が否定的に思うなんて筋が通らないことだ。筋が通らないことなんだけど、思ってしまった。いやな予感。ざわっ。ここでロドリゲス出して大丈夫だろうか。

 実はこのとき、「鎌スタ野球部」3名で交わしたグループLINEのログがある。「鎌スタ野球部」というのは放送作家の近澤浩和さん、会社員のノッチくん、僕の3人で去年結成した2軍愛好会だ。今年は暑かったから大した活動ができていないが、9月は梨の季節でもあり、鎌スタで弾けることになっている。普段は各々、1軍戦中継を見ながら「清宮ナイス出塁! 万中頼んだぞ!」とか「ぐんぐん郡司、ナイスぅ~!」とかテキトーなやりとりをしている。つまり、読者のあなたと同じだ。

近澤「心配なロドリゲス」「9回裏よりはマシだけど」

ノッチ「ほんと心配です」

近澤「最近6試合のうち4試合で失点してるからね」

 いきなり核心を突いたやりとりが交わされる。これは僕ら「鎌スタ野球部」だけの心配ではなかったと思う。もしかするとファイターズファン全員が、ざわっ、ざわざわっ、となっていたのじゃないか。ちなみに僕とノッチくんはテレビで、近澤さんはZOZOマリンでこの状況に見入っている。

えのきど「いきなり……」

 沈黙していたえのきどが言葉を発する。僕は言霊信仰じゃないけど、「心配なロドリゲス」的なことを言うのを憚(はばか)っていたのだ。近澤さんたちのようにポンポン言えない。もちろん胸騒ぎはしてるのだけど、根本的にロドリゲスが好きなのだ。悪くは言いたくない。が、ついに「いきなり……」と短く言った。先頭の山口航輝にヒットを許したのだ。無死走者1塁。ロッテは切り札・代走和田康士朗を出してくる。

 次の岡大海はバントの構え、ここは何でもあり得る状況だ。送りバントかバスター・エンドランか盗塁か。岡はバントを失敗してカウント1-2になった。その4球め、和田康士朗が走った。ロドリゲスの球は外角にはずれ、捕手古川裕大のセカンド送球は無理な体勢からになる。セーフ! 和田はシーズン14個めの盗塁。無死走者2塁になってしまった。