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僕の脳裏にひとりの男の顔が浮かんだ

近澤「ロドリゲスの時は当たり損ねがヒットになったり、味方がエラーするんだけどさ」

 近澤さんの不気味なひと言が現地から飛んでくる。えのきど&ノッチくんは不安すぎて何も言えない。カウント2-2から岡は2球ファウルで粘る。明らかに右打ち。進塁打狙いだ。

 と、7球目、ロドリゲスの変化球が古川の手前でバウンドした。それを古川が大きく後ろに逸らす。ボールは左後方、3塁側ベンチ脇のバックネットまで転がる。ワイルドピッチ! 和田はサードベースを蹴って一気にホームへすべり込む。バッテリーエラーで勝ち越しの1点を献上してしまった。スコア4対5。

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えのきど「うわー」

 そして、沈黙が続いたため、付け加える。

えのきど「無口になっちゃったねー」

ノッチ「ワイルドピッチ失点、守乱で勝ち越されてしまった。逆転しましょう!」

 が、ノッチくんの前向きなコメントもここまでだった。

ノッチ「我が家は奥さんとバスケvs野球のチャンネル権争い勃発!」

近澤「バスケ見たい」

 僕はZOZOマリンの観客席から発せられた近澤さんの「バスケ見たい」にグウの音も出ない。その日は裏でバスケのワールドカップ順位決定戦・ベネズエラ戦の大逆転劇が繰り広げられていた。そりゃ僕だってベネズエラ戦は録画セットしたけれど、今はチャンネルを変えられないよ。ここで見捨てたらファイターズが可哀想だ。

 8回裏、和田のダメ押しタイムリーで4対6に突き放され、ジ・エンド。エラーで自滅、相手の切り札に打ち負かされる最悪の展開だった。ファイターズは12球団トップのエラー数だ。エラーにカウントされないミスも含めると途轍もない数になる。競り合いに勝つチームになるにはエラー、ミスを減らさなきゃならない。そして、競り勝てるチームこそ強いチームなのだ。

 僕の脳裏にひとりの男の顔が浮かんだ。チバテレ中継がロッテの攻撃中、何度もスイッチして見せた男。ていうか、本当は2ショットなので「男たち」とすべきなのだが、僕の心はその男をロックオンしている。

 ロッテ、金子誠コーチ。

 ベンチに吉井理人監督と並んで2ショットにおさまっていた。攻撃中はストップウォッチを手に後ろのスタッフに声をかけたり、ずっとしゃべっている。吉井さんは攻撃面は金子コーチに任せているようだ。局面が変わるごとに金子誠を見つめる。件(くだん)の7回裏は金子コーチの仕掛けだった。まんまとハマった。また得意そうな顔をするんだ。2ショットの絵のなかで、役職的には「監督とコーチ」で、吉井さんが主、金子コーチが従のはずなんだけど、仕掛けていってるのが金子誠なので、「吉井さん→静、金子誠→動」と主役になっちゃってる。

現役時代の金子誠 ©文藝春秋

 僕はね、バッテリーエラーで負けたことより、金子誠に得意満面の笑みを浮かべられるほうがメンタルに堪えた。今シーズン、ずっとそこにフォーカスしないように気を紛らわせてきたんだ。僕の次期ファイターズ監督候補、イチ推しだったからね。考えないように考えないようにしてたけど、8月の終わり、ZOZOマリン最終戦で堪忍袋の緒が切れた。金子誠にロックオンだ!

 めっちゃ悔しい。ていうか、もういちばん悔しい。金子誠めー、ぎゃふんと言わせてやる。

 ちっきしょー、いいコーチじゃねぇか!

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