8月28日、大ヒットアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』(2006年)の朝比奈みくる役などで知られる声優・後藤邑子さんが著書を出版することが明らかになった。

 近年では3ヵ月ごとに50本、年間にすると200本前後の新規のテレビアニメが放送され続ける中で、それぞれのキャラクターを演じる声優にも注目があつまり、グループやユニットを組んでアイドル・タレント活動を行うようにもなっている。

後藤邑子さん(撮影=橋本篤/文藝春秋)

 後藤さんは、その動きを決定づけた2000年代のアイドル声優ブームの渦中にいたひとり。声優がキャラクターを演じながら、歌って踊るイベントが注目を集め、アニメ人気との相乗効果により、一大ブームへと発展した。キャラクターソングがCDランキングの上位を占め、彼女自身も武道館のステージにも立った。

ADVERTISEMENT

 2022年に公開されたインタビューでは、当時のことについて次のように語っている。

――当時の『涼宮ハルヒの憂鬱』界隈の盛り上がり方はすごかったですね。「あ、売れてるんだ」と実感したことはありましたか?

 

後藤 武道館にポップアップ(舞台の下から飛び上がる)で登場してましたからね(笑)。夢にも思わなかった景色です。なぜ自分がここにいるのか分からないまま、ただすごく楽しかったです。

 これほどのタレント活動は、事務所としても前例のないことだったので「イベントがすごく多い! 海外でも歌うんですか!? マネージャーは誰が行けます?」とバタついていました。

2007年7月、アメリカのイベントの際の後藤さん(後藤さん提供)

 そんな人気絶頂の2012年、彼女は緊急入院し、無期限の活動休止を発表。その影には、重篤な持病の自己免疫疾患の存在があった。

――その時点でも、まだ持病は事務所に隠していた?

 

後藤 隠していました。「やりたいことが取りあげられちゃう」と思ったら、言い出せませんでした。(中略)

 でも、次第に足がむくんで靴が履けなくなってサンダルで仕事したり、関節の痛みが激しくなって自力で階段の上り下りができずマネージャーに肩を貸してもらったり……。あと、帯状疱疹が悪化して、着られない衣装も増えました。そんな状態が続けば、事務所側も怪しみますよね。

 そのうちに寝転がると溺れているように息苦しくて、座った状態じゃないと眠れなくなりました。

 ついに業を煮やしたマネージャーたちが3人がかりで説得に来ました。「一回検査を受けましょう」「仕事は続けられますから」「明日家まで迎えに行くので、そのまま病院に運びますね」と。自分で行くと言ったんですけど、それは信用されなかったですね(笑)。

(中略)検査で、肺に水が溜まっていることと、心臓が傷ついて漏れ出た心嚢液が臓器を圧迫していることが分かりました。結局、そのまま緊急入院。すべての仕事を降板することになりました。

 こうして担ぎ込まれ、約1年の入院生活が始まった後藤さん。一時はネット上で「死亡説」まで流れ、更新されていたブログも次第に途絶えがちになっていった。そのとき、彼女に何が起こっていたのか――。

 これまで語られなかった「2回目の余命宣告」に至るあまりにも壮絶すぎる覚悟と本当の病状。そして、10代の身に降りかかった「最初の余命宣告」と人生を変えた出会い。声優ブーム真っ只中で次々と激変していく環境に、「文春オンライン」インタビューをうけて届いた反響……。

 2000年代の声優ブームの中で、一人の女性に何が起こっていたのか。『私は元気です 病める時も健やかなる時も腐る時もイキる時も泣いた時も病める時も。』は9月12日に発売される。

書影で点滴台を振りかぶる著者の後藤邑子さん