復興ムードと自身の内面とのギャップを感じてきた
片桐さんは震災後、「あの日のままでいたい」と思い続け、ずっと自身の髪の毛を切ろうとしなかった。しかし、昨年の7回忌を迎え、イベントで断髪式をし、ようやく切った。そのとき、「髪ってすごいな。(切る行為は)そんなに人の気持ちを変えられるんだなあ」「(妻と子どもに対しての)自分自身の向き合い方は変わらない。震災があって、家族を失った。でも、美容室は続いている。生き方が変わるわけではない」と言っていた。
昨年、髪の毛を切ったのは理由がある。被災した市街地が徐々に復興し、片桐さんも震災前から続けて来ていた美容室を再開した。復興ムードと自身の内面とのギャップを感じてきていたからだった。あれから1年が経った。髪を切ったことで、ギャップが埋まったのだろうか。
「やっぱり、(復興ムードと内面は)リンクはしないんだね。できない。もちろん、過去に囚われているわけではない。これは意識的にも思っている。でも、立場が変わってしまうんだよね。抱えたもの、失ったものの大きさが違う。つまり、心の住処が違う。これは一生もの。『いつまで震災って言ってるんだ!』という声も聞こえてくる。だんだん、格差が開いてきた」
「明日のことはわからない。今日のことしか考えない」
今年は震災から7年。1月末に母親(享年73)が亡くなった。歩けなくなったので病院に入院したが、急変したという。
「こちらとしては何もできなかった。急すぎて、悲しみはなかったが、妹に電話で連絡して泣かれたときには、自分もちょっと涙が出た」
震災後、余震が起き、津波注意報が鳴り響く中で取材をしたこともあったが、そのとき、片桐さんは慌てず、避難をしようともしていなかった。理香子さんの苦しみを体感したいという思いがそうさせていた。今はどうなのか。
「営業中であれば、まずはお客さんを考えるかな。一緒に逃げて、お客さんの対応をすることになる。でも、夜だったらどうするのか? “あの苦しさ”を経験してないからな。事業を復活させたけど、生活も独り暮らし。求めるものはないかな。母親も急死するのを見ると、あまり長生きしようとは思わない。そこにこだわりはない。ただ、自分からはない。震災後3、4年目くらいまでは考えたけどね。(天国で)嫁さんと一緒にいたほうが楽しいのかな、と思ったりする。明日のことはわからない。今日のことしか考えない。だから、いま、やりたいことをする」
写真=渋井哲也