甲子園は清原の背中を押している、そう感じた夏の奇跡
そして、求めても得られない「天運」。司法の裁きを受け、被害を受けた人や傷ついた人に赦され、すべてを説明したとしても、それは状況が整ったというだけのこと。咎め立てはしないにしても、積極的に許そうとか関わろうとかいう気持ちにはまだ至らないでしょう。「推し」ているとかの特別な感情がない限りは。
また見たいな。また取り上げたいな。また話を聞きたいな。興味がわいたな。そういった気持ちを生む何らかのきっかけが必要です。マイナスがゼロになっただけではなく、プラスになるようなきっかけが。それは天運としか言えない巡り合わせです。破竹の大連勝で日本一になった優勝球団が「清原さんが春のキャンプに来てくれたおかげです!」と感謝してくれるとか。メジャーリーグで日本人初のホームラン王になった選手が「清原さんのバッティングを参考にしています!」とリスペクトしてくれるとか。自らのホームランでそういうきっかけを作ることができればよいのでしょうが、そうすることができない今の清原さんには何らかの巡り合わせを待つよりありませんでした。
しかし、清原さんにはそれが起きた。
2023年8月23日、夏の全国高校野球の決勝戦。スタンドには清原さんの姿があり、グラウンドには次男の勝児さんの姿がありました。慶應義塾高校107年ぶりの全国制覇という偉業の日に、おそらく史上初であろう「親子二代での甲子園優勝」という大偉業が生まれました。107年ぶりの出来事が、勝児さんの最後の甲子園に重なったという巡り合わせには、誰しもが1985年の夏に生まれた名実況「甲子園は清原のためにあるのか!」を思い起こしたはずです。「清原」の名がこんなに喜ばしく晴れやかに語られたのは、2016年のあの日以降初めてではないでしょうか。長い歴史で誰もできなかった奇跡を、「清原」が成し遂げたのです。僕は「甲子園が清原の背中を押してくれた」と思いました。こんな奇跡が生まれたのだから、そう思ってもいいんじゃないかという気持ちになりました。この話をもっと聞きたい。一緒に泣きたい。「清原」とともに喜びの時間を過ごしたい。「皆さん、もう許してもよいではないか」と。
引きつづき「キャンセル」の向かい風は強く吹いています。9月下旬に発売されるライオンズの歴代の名選手を収録したという野球カードでは、80名以上の歴代選手・指導者がカード化され、球団との関係があまりよくないと噂される伊東勤さんや伊原春樹さんのカードも含まれるなかで、清原和博さんのカードは公表されたカードリストに含まれていませんでした。歴代の全選手を収録することは無理としても、清原和博さんを収録しない理由は何かあるのでしょうか。松坂大輔さんのように個人でまとめた商品でも出るのでしょうか。何者かによる「キャンセル」なのでしょうか。歴史と事実を捻じ曲げてまで「キャンセル」するほどの正当性は、今もなお存在するのでしょうか。もう許されてもいいのではないでしょうか。清原和博はライオンズの黄金の歴史の巨大な一部分です。その事実は誰にも捻じ曲げられません。
来たる2024年3月16日に埼玉西武ライオンズは初のOB戦「LIONS CHRONICLE 西武ライオンズ LEGEND GAME 2024」を開催すると言います。出場選手はまだ一部の発表に留まっていますが、この日こそが「キャンセル」の解かれる節目の日になることを願いたいと思います。「何が起きるかわからない」などと日和見で発表を当日まで渋るとかではなく、この日を多くの人が楽しみに迎えられるようにしっかりと告知をしたうえで、「キャンセル」が解かれることを願います。もしその告知を「2月2日」にするつもりなら個人的にも賛成です。その日の意味を上書きするために今はまだ伏せている……そうであってほしいと願います。
清原ファンから始まってライオンズファンになった者として、そのふたつを再び一緒に楽しめる日を待っています。
清原さんは、そうなるためのステップをしっかり踏んできた、僕はそう思います。
誰かの推しが罪を犯したときにも「清原さんのようにつとめを果たせ」と言えるくらいの、険しくて真っ当な道のりを歩んできた、そう思います。
だから、「皆さん、もう許してもよいではないか」と思うのです。
つとめを果たさないまま「ほとぼりが冷めたらヌルッと許してほしい」などという話であれば、もちろん答えはNOですけどね!
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