みなさんには「親友」と呼べる存在はいますか?

 弱肉強食のプロ野球の世界であっても、友情は成立すると僕は思います。2020年に巨人を戦力外になって現役を引退した僕ですが、「親友は誰?」と聞かれて真っ先に思い浮かぶのは「京ちゃん」です。

人見知りの壁を破壊する“AB型サウスポー”

 プロ野球では、チーム内の同学年が集まって飲み会を開くことがよくあります。僕が2012年に巨人に入団した時には、高卒で入団していた藤村大介や中井大介が中心となって同学年会を開いてくれました。

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 ところが、春季キャンプ開始直後に開かれた最初の同学年会に、僕はあろうことか用事があって参加できませんでした。ただでさえ人見知りなのに、会に参加できなかったことで同学年との距離がますます広がったような気がしました。

 しかし、そんな壁をぶち壊す存在がいました。それが「京ちゃん」こと高木京介です。京ちゃんは僕の人見知りなど気にすることなく、ごく普通に話しかけてきたのです。

高木京介 ©時事通信社

 最初の印象は「こんな人が実在するんだ……」というものでした。

 たとえば、ロッカールームで京ちゃんは「今日こんな話があったんだ」とエピソードを語り始めます。人見知りとはいえ、僕も一応「会話を広げよう」と気を遣いますから「面白いよね~」などと乗っかります。ところが、京ちゃんは「そうなの?」と途端にそっけなくなります。自分が話し終わったことで満足したのかもしれません。

 よく血液型で性格を診断する人がいますが、僕はあまり信じたことがありませんでした。でも、京ちゃんに会って初めて、「これがAB型の二面性か……」と痛感しました。ひらたく言えば、変わった人なのです。

 練習でも我が道を貫いていました。みんながやっていること、楽しそうなことに流されるのではなく、「オレはこっちをやります」と最初から決めたメニューをやる。寮生活でも風呂や食事など、自分の時間軸に従って動いているようでした。

 その一方で、周りからはイジられる「愛されキャラ」でもありました。ジミー大西さんに顔が似ていたことから、大学の先輩の矢野謙次さんに「京ちゃん、やってる?」と振られ、「やってる! やってる!」と返して爆笑を誘っていました。

 お互いに1年目からチャンスをもらえたことから、僕と京ちゃんは一緒に行動する時間が増えました。周りからは「いつも一緒にいるね」と言われました。

 当時の巨人は守護神に西村健太朗さん、セットアッパーに山口鉄也さんとスコット・マシソンがいて、僕らの役割は勝ちパターンの投手につなぐ2~3番手。緊急登板も多い難しい役回りでしたが、チームが勝利を重ねることが何よりの喜びでした。その年、巨人は日本一に輝いています。

 僕と京ちゃんはブルペンで共闘していましたが、バーチャルの世界でも一緒に戦っていました。ともに『モンスターハンター』にのめり込み、パーティーを組んでプレーしていたのです。武器や防具についてディスカッションを重ねるなど、かなりの時間をモンハンに費やしました。

 退寮するタイミングも一緒でした。先に転居先を決めたのは京ちゃんで、どうしようかなと悩む僕に、「こんなのもらったよ」と不動産屋から紹介された物件の資料をたくさん渡してくれました。

 そのなかで「いいじゃん」と思った物件に転居しました。引っ越してみると、まさかの京ちゃんの部屋の隣。これにはびっくりしました。

 それ以来、球場に行く時は交互に車を出し合って、一緒に行くようになりました。

 ある日、京ちゃんの顔つきが明らかにいつもと違うと感じました。思い詰めたような表情で、「これ、どう思う?」と僕に相談してきました。それが球界を揺るがす大問題となる「野球賭博問題」でした。野球賭博の存在自体を知らなかった僕は、ことの重大さにまだ気づいていませんでした。