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山田哲人への死球で殺害予告を受けた元巨人・田原誠次が明かす、“加害者側”の本音

文春野球コラム ペナントレース2023

2023/09/06
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 今年のプロ野球では、中継ぎ投手が強打者にデッドボールを当ててしまい、球場が騒然となるシーンをよく見ます。

 そのたびに、僕は7年前の出来事を思い出します。僕の名前がコールされただけで場内からブーイングが渦巻き、「殺すぞ!」「次当てたら覚えてろよ!」などと殺害予告が飛び交う。殺伐とした雰囲気のなか、恐怖に身を固くしながらマウンドに上がっていた頃のことを。

現役時代の筆者・田原誠次 ©時事通信社

今のプロ野球に「故意死球」はあるのか?

 事件が起きたのは2016年7月30日、東京ドームでの巨人対ヤクルト戦でした。9対0と巨人が大量リードを奪って迎えた8回表、僕はリリーフとして登板しました。1アウトから打席に入ったのが、山田哲人選手。2年連続トリプルスリー達成に向けて、順調に数字を積み重ねていました。

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 そんな山田選手に対して、僕はあろうことか背中にデッドボールをぶつけてしまったのです。一度は打席内に倒れ込んだ山田選手でしたが、立ち上がって一塁へと向かいました。ところが、その約10日後に山田選手は背中の痛みを訴え、登録抹消されました。僕のデッドボールがきっかけだったのは明らかでした。

 それ以来、僕はヤクルトファンを中心に猛烈なバッシングを浴びるようになりました。7年前のことではありますが、今でも山田選手に当ててしまった痛み、スタンドからブーイングを浴びる痛みは忘れられません。

 まずは、この場を借りてお詫びさせてください。

 デッドボールを当ててしまった山田哲人選手、山田選手を応援しているヤクルトファンのみなさま、申し訳ございませんでした。

 7年前には直接お詫びすることがかないませんでした。チームから「謝りに行くな」と止められたのです。

 大量リードするなか、相手チームの主力打者へのデッドボール。「当て方」が非常によくありませんでした。当時のヤクルトにはバレンティン選手などチーム思いの血気盛んな選手がおり、僕が謝りに出向くことで相手を刺激する可能性がありました。阿部慎之助さんをはじめ、多くの先輩から「今は行かないほうがいい」と諭されました。

 山田選手と親交の深い坂本勇人さんが「俺から言っとくから」と言ってくださり、山田選手に話してくださったようです。僕も知り合いのヤクルト選手を通じて「申し訳ございませんでした」と、山田選手への伝言を頼みました。

 僕が山田選手にぶつけてしまった理由と背景について書かせてください。

 断じて故意(わざと)ではありません。ひと昔前のプロ野球界では故意死球が横行していたようですが、少なくとも僕が巨人に在籍した当時にはそんな慣習は見たことも聞いたこともありませんでした。そもそも、狙って当てられるだけの技術があるなら、抑えればいいのです。

 僕はその年に初めてフルシーズン1軍にいられた中継ぎ投手でした。右投げのサイドハンドですから、右の強打者が打席に入ると必然的に出番が回ってきます。

 当時のヤクルトなら山田選手やバレンティン選手、畠山和洋選手など、見るのも嫌になるような右の強打者がいました。他球団にも名だたる右打者が並び、そんな打者を抑えるのが僕の仕事でした。

 自分より何倍、何十倍もの給料をもらい、打席でバットを構えるだけで尋常ではない威圧感を放つ強打者。僕はマウンドで何度も「オレはライオンの前に立つウサギみたいなもんやな」と感じていました。

 でも、小動物には小動物なりの戦い方があるわけです。ウサギが突然ジャンプして、ライオンが驚いているうちに逃げてしまう。そうやってピンチを凌ぎ、自分の仕事場を確保していくのです。

 僕にとっては、その一つの策が「インコース攻め」でした。僕は右打者のアウトコースへのスライダーを決め球にしていましたが、山田選手ほどの打者になればアウトコースだけで抑えられるほど生やさしくありません。対等に勝負するためには、インコースを見せておく必要があるのです。

 あの日、僕は山田選手にインコースギリギリのストライクを投げています。でも、僕のなかで「今のコースじゃ、次に投げたら持ってかれる」という感覚がありました。恐らく捕手の小林誠司もそう思ったのでしょう。続けてインコースにミットを構える小林が、「もっと厳しくこい」と言っているように見えました。

 インコースのボール球でのけぞらせ、意識させたところでアウトコースのスライダーで打ち取る。そう考えて投げたストレートが抜け、シュートしながら山田選手の背中に向かってしまいました。

 その後、一塁に出た山田選手のリード幅が気になり、僕は牽制球を投げています。今にして思えばこの牽制球が「トドメ」になったような気がします。とてもじゃないですが、マウンドで冷静ではいられませんでした。

 真剣勝負の末に起きた事故とはいえ、山田選手に対して今でも申し訳なかったという罪悪感が残っています。

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