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山田哲人への死球で殺害予告を受けた元巨人・田原誠次が明かす、“加害者側”の本音

文春野球コラム ペナントレース2023

2023/09/06
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ブーイングを浴び続けた人間の末路

 僕に対するブーイングはなかなか壮絶でした。今までに聞いたことのない声量が場内にとどろき、スタンドから飛んでくるヤジの一つひとつが殺気立っている。「これがブーイングなんだな……」と実感しました。よほどメンタルが強くない限り、まともな精神状態では投げられないと思います。

 とはいえ、人間には適応能力というものが備わっています。あまりに長くブーイングを浴びていると、次第に一つひとつのヤジが聞き取れるようになってきます。

「殺すぞ」と言われれば「殺さないでください」と思い、「次当てたら覚えてろよ」と言われれば「わかってます。当てませんから」と心のなかで答えていました。

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 でも、今まで通り投げられたかというと、そうでもありません。強打者が右打席に入り、「もう、ああいうことはないようにしよう……」と思えば思うほど、山田選手へのデッドボールがフラッシュバックしてきます。こうした自分のメンタルのブレがチームに悪影響をもたらし、もどかしくて仕方ありませんでした。

 その後、シーズン終盤に戦線復帰した山田選手と対戦する機会がありました。僕にはもうインコースを突く勇気はありませんでした。

「次に当てたら、本当に殺される……」

 苦し紛れに投げたスライダーは、山田選手に簡単にレフト前へと運ばれました。

 山田選手にも僕と対戦するやりにくさがあったのでしょう。本来の山田選手なら、スタンドまで持っていかれても不思議ではないボールでした。その後、人づてに山田選手が「田原さんとは対戦したくない」と言っていると聞きました。

 僕は現役時代、通算207イニングを投げて15個の死球を記録しています。でも、僕のなかでは、「30~40死球」は与えている体感なのです。山田選手へのあのデッドボールが、20個分くらい重みとして深く刻まれているのでしょう。

中継ぎ投手への過度なバッシング

 今年7月、巨人の高梨雄平投手が阪神の近本光司選手に死球を与え、右肋骨を骨折させてしまう出来事がありました。

 近本選手には悪いですが、僕は投げた高梨投手の気持ちが痛いほど理解できました。

 ミート能力が高く、足の速い近本選手を塁に出せば、二塁打にされるようなもの。さらに甘く入れば一発長打もあるわけです。抑えるには、どうしても厳しいコースを攻めざるを得ません。

 これがエース格の戸郷翔征投手だったら、そんな厳しい攻め方はしないと思うのです。高梨投手のように「左対左」を抑えることを義務づけられている存在、もしくは自分の地位を固めていかなければいけない存在こそ、強打者に対して厳しく攻めなければならないのです。できなければ自分がこの世界から消えるだけ。代わりなどいくらでもいるのです。

 投手はインコースに投げる瞬間、ちょっとしたリリース感覚のズレから「当たるかもしれない」とすぐに察知します。あとは「お願いだからよけてくれ」と祈るしかありません。

 もちろん、最低限の技術がない人間はインコースに投げるべきではありません。それでも、ギリギリの世界で戦っている人間がいることも頭の片隅に置いてもらえたらありがたいです。

 今季、ヤクルトの中継ぎ陣にも主力打者にデッドボールを与え、激しいバッシングにさらされた投手がいます。彼らはわざと当てているわけではありませんし、打たれたくない思いから厳しい攻めをしたはずです。

 高い入場料を払って野球場に来たファンの方からすれば、観戦するうちに選手に感情移入するあまり、デッドボールに対して激情が湧くのも当然でしょう。

 デッドボールを当てた側の僕が言うべきではないかもしれませんが、野球というスポーツがある以上、デッドボールがなくなることはありません。

 投手に対して「技術がない」と指摘するのはいいとしても、「殺す」と脅すことは一人の投手の野球人生を奪いかねません。言葉にする前に、野球選手として「殺す」ことがどういうことかを考えてみてください。ましてやSNSが発達した現代では、ふくれ上がった悪意は簡単に当事者へと届いてしまいます。

 勝負の瀬戸際で追い詰められた中継ぎ投手が、どんな思いで強打者のインコースに投げ込んでいるか。“加害者”の一人として、少しでも想像してみていただけたら……と願ってやみません。

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