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動画でアップしたら批判されてしまうかもしれないようなことが寄席では笑いになる

 すごく客席の空気が暖かくて勘の良いお客様が多いと感じた時なんかは、「皆さんはマートンのこと好きなんでしょ。僕、あの人大嫌いなの」とか、古典落語【時うどん】の中で、うどんを食べる時に近本のサイン盗み疑惑の仕草を入れて、「紛らわしいことするな!」みたいなギャグをいれたり。

 動画でアップしたら批判されてしまうかもしれないようなことが笑いになる。寄席はそんな素敵な空間なんです。

 なぜそうなるか。それは、ライブというものが、人の【心の温度】を感じに行くための空間だから。

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 演者の温度とお客様の温度。お互いがお互いの温もりを感じるから、感じようとするからこそ、そこに笑いや愛が生まれるわけであって、その温もりをどちらか一方、もしくは両方が感じようとする事をやめた時、そこには憎しみだったり怒りだったりの感情が生まれてくる。

 僕たち落語家でいえば、ウケる時というのは自分の温度をしっかりお客様に心地よく受け取っていただいてるという証拠であり、逆にその温度を伝える努力をこちらが途中で諦めてしまったり、逆に温度感を伝えようとしすぎたり、また、お客様の側が何らかの理由で演者側の温度を受け止めようとしない時。これは当然ウケない。

 寄席の流れでも、前座からトリまで表現の仕方は違えど目に見えない心の温度がほぼ同じ演者が続く時というのは凄く良い会になるんです。

 逆もまた然り。これらはやっぱりライブじゃないと絶対に味わえない。だから人は球場や寄席に足を運ぶんだと思います。

 僕は球場で観る時は、誰が打った、誰が抑えたとかでもちろん一喜一憂しますが、そういうチームの温度、選手と監督・コーチの温度、対戦相手との温度、みたいなものを感じられた時、「今日、来て良かった」って思うんです。

優勝したタイガースとバファローズの共通点

 今季優勝したタイガースとバファローズは、シーズンを通してチームとしての【心の温度】が一番高かったように思います。

 なぜ一軍にあげたのか。なぜ二軍に落としたのか。なぜスタメンを外したのか。なぜここで交代するのか。これら全てを監督が事細かく説明せずとも、きちっと的確な言葉や態度で選手達に自分の目指す野球を高い【心の温度】で示し続けたこと。だから、優勝できた。

 昨年、一昨年のスワローズがそうでした。【絶対大丈夫】という言葉がチームの【心の温度】を一つにしました。

 今季のスワローズは【心の温度】が少しバラバラになってしまっていたように見えます。

選手個人個人がチームの温度より自分の温度を保つのに精一杯だった

 WBCの影響も少しはあったかもしれないし、僕たちには見えない何かがチーム内であったのかもしれない。選手個人個人がチームの温度より自分の温度を保つのに精一杯、という感じに見えました。

 死球の件で岡田監督がスワローズに不快感を示したことがわりと大きなニュースになったこともあってか、9月23日の試合前のメンバー表交換のときに、髙津臣吾監督が頭を下げて和解したように見えたシーンがありました。

髙津監督 ©時事通信社

 以前の髙津監督ならこんなニュースになる前にもっと早く対処できただろうし、際どいコースを攻めないといけないとはいえ、当ててしまったのは事実なので、自チームの選手を庇うようなコメントを出すのではなく、キチッと高い【心の温度】で叱咤をするべきところであったようにも思うし、もし髙津監督が「ここでこの選手を叱咤すると落ち込んでしまうかもしれない」と思って擁護するようなコメントを言ってしまったのであれば、それこそ【心の温度】が伝わっていない証拠。

「悪いことは悪い」と味方に対してもハッキリ言えないと、それは回り回って自分達の首を絞めることになってしまう。

 髙津監督は間違いなく心の優しい監督だと思います。だから、岡田監督が佐藤輝明を二軍に落としたような荒療治はできないと思うんです。

 そこに選手達が甘えすぎたんじゃないか。僕は髙津監督に荒療治のような柄にもないようなこと、我々の世界で言う「ニンにない事」はあまりやってほしくはない。

 もう一度、チームとしての【心の温度】を高くするところからやり直さないといけないと思うんです。

 【心の温度】は監督が作る。

 ということを今季岡田監督が教えてくれました。

 認めるのは悔しいですが、今季のこの苦い経験を良薬にして飲み込んで髙津監督は必ずチームを前に進めてくれる。

 僕は、これからも髙津ヤクルトを信じます。

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