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「申し訳ございません。実は、現在『珈琲西武 本店』はしつこく掛かってくるいたずら電話に悩まされ、業務に支障が出てしまっていて……。そのため電話対応をしないようにしておりまして。本当に申し訳ございません」

 肩書とは無縁の丁寧かつ物腰の柔らかい対応に面食らう私をよそに、さらに驚きの言葉が続く。

「『珈琲西武 本店』は8月31日に閉店・店舗移転しますので、新しい店舗用の電話番号がございます。こちらは、番号表示がされるナンバーディスプレイ仕様ですので、いたずら電話か否かの見分けがつき、予約の電話を受け付けることができます。お手数おかけして申し訳ございませんが、こちらにお電話を……」

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閉店を知ってぼう然

 私は話を遮るように、「えぇッ! なくなっちゃうんですか!? マジっすか!?」と電話口で悲鳴に近い声を上げていた。もはや、「ナンバーディスプレイになった」なんて情報はどうでもいい。いや、どうでもよくはないんだが、予期せぬ突然の告白に、『珈琲西武 本店』ハードユーザーの私はぼう然とした。

「個室をリーズナブルな価格帯で借りられる」、「パフェも西武カレーもサンドウィッチもめっちゃ美味い」、「新宿東口にいまだ存在する大箱の純喫茶」……これらがすべてなくなるかもしれないと思うと、移転とは言え、そのショックは大きかった。

 気が付くと、私はこう切り出していた。

「もしよろしければ取材をさせていただけないですか。どうして東口にオープンするにいたったのか、移転後はどうなるのか……一ユーザーとして気になってしまって。今までとてもお世話になったので、歴史をきちんと知っておきたいといいますか」

 自分の素性を明らかにすると、新宿メトログループ飲食事業部・統括部長の青木智宏さんは快諾の意を示してくれた。取材日は後日、あらためて調整のうえ。もちろん取材場所は、昭和遺産『珈琲西武 本店』である。

創業当時の『珈琲西武 本店』は西武新宿線新宿駅の目の前にあった(筆者撮影)
『喫茶西武1号店』があった場所には、現在「カラオケルーム歌広場」がある(筆者撮影)

珈琲西武の知られざる歴史

『珈琲西武 本店』は、3階に個室がある。しかし、実は2階の奥にも、個室ではないものの予約専用の席がある。2階全体を見渡せるこの特等席で、青木さんに店舗の変遷について説明してもらった。