純喫茶『珈琲西武 本店』が、8月31日をもって閉店・店舗移転をする。

 新宿を代表する名喫茶店が、また一つなくなることに寂寥感を覚える人は多いのではないだろうか? なぜ『珈琲西武 本店』は移転するのか。同店の誕生と変遷を聞いた。

『珈琲西武 本店』2階(写真提供:新宿メトログループ)

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創業59年の老舗喫茶店

 純喫茶『珈琲西武 本店』がビルの建て替えにともない、8月31日をもって閉店・店舗移転をするという。東京オリンピックが開催された1964年(昭和39年)、同店は新宿東口にオープンするが、その始まりは戦後間もない1945年(昭和20年)までさかのぼることになる。

「これからは日本人も靴を履く時代がくる」

 そう考えた創業者・方山元俊氏は、焼け野原だった新宿に小さな靴店を開業。商売が繁盛し軌道に乗るや、酒場やスマートボール店を次々とオープンさせ、方山氏は新宿企業株式会社を設立する。現在の新宿メトログループ――、『珈琲西武 本店』を運営する事業者である。余談だが、区役所通りに面している「新宿バッティングセンター」も、新宿メトログループが運営する施設だ。

(なお、新宿メトログループは、東京メトロを経営する東京地下鉄株式会社とは関係性はない)

珈琲西武に起きていた異変

 同社は、戦後の混乱期から新宿の飲食事業やアミューズメント事業、不動産事業などを手掛ける、いわば現代新宿史の生き字引のような存在だ。昭和、平成、令和にわたって新宿を見つめてきた『珈琲西武 本店』の閉店・店舗移転は、また一つ新宿の歴史に幕が下りることを意味する。X(旧Twitter)で、閉店・店舗移転がアナウンスされるや大きくバズったのは、「新宿東口から『珈琲西武 本店』がなくなる」ことに、何かしらの思い入れを抱いている老若男女が少なくないからだろう。

 筆者もその一人だ。私は、某芸人の連載を編集する立場にあるため、この4年ほど、『珈琲西武 本店』の個室を必ず月に一度は利用し、その芸人を招いて取材をしている。

 2か月ほど前。いつものように個室の予約をしようと店舗に電話をすると、一向につながらないということがあった。翌日、翌々日にかけても、「ツーツー」とずっと話し中のままなのだ。困った私は、運営元である新宿メトログループに連絡し、「予約をしたいのですがつながらない」と伝えると、しばらくして飲食事業部の統括部長と名乗る人物から折り返しの電話があった。