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ビルの建て替えによって移転を決意

 だが、人間が寄る年波に勝てないように、ビルの老朽化には抗えない。『珈琲西武 本店』は建て替えに伴い、新宿区役所の裏手、東通りへと移転する。カフェ・新興喫茶の一大エリアだったこの地に残る、戦後の新宿を知る大箱の喫茶店は、『名曲・珈琲新宿らんぶる』だけになった。

「ビルの建て替えは決まっていたことでした。建て替え時に、一時的とはいえ『珈琲西武』がなくなってはいけないということで、2019年に西新宿メトロビルの2階に『珈琲西武 西新宿店』をオープンしたという背景があります」

 だったら、本店を西新宿店に移転させるという選択肢もあったのでは? 聞けば、東通りに新たな自社ビルを建て、その2階に『珈琲西武 本店』を移転させるという。

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「新宿メトログループとしても大きな挑戦になります。新しいビルは、『ハナミチ東京 歌舞伎町』と題して、地下1階に大衆演芸場を併設し、3階と4階は『もし江戸時代にフードコートがあったら』というコンセプトの飲食店スペースが広がります。『珈琲西武 本店』は、その2階に移転します」

『ハナミチ東京 歌舞伎町』の看板には、『珈琲西武』の文字が(筆者撮影)

『ハナミチ東京 歌舞伎町』は、日本の文化を発信するための商業施設だという。

「純喫茶も立派な日本文化」

「日本の文化を考えたとき、純喫茶も立派な文化なのではないかと思ったんです。それで『ハナミチ東京 歌舞伎町』の2階に移転しようと決めました」

 たしかに、ものが豊かになっていく過程で生まれた「純喫茶」は、日本現代史の特異なカルチャーに違いない。あまつさえ、戦後焼け野原からの復興、学生と機動隊の衝突、バブルと再開発――そうした光景を見届けてきた『珈琲西武 本店』は、時代の証人だ。

「東口の『珈琲西武 本店』は、2つのフロアを合わせて250席あったのですが、新店舗は100席程度になるため縮小する形になります。しかし、移転にあたってステンドグラスも赤いソファーも移設します。可能な限り、今の『珈琲西武 本店』の雰囲気を残します。個室ですか? もちろん用意しますので、ご安心ください。場所は変わりますが、『珈琲西武 本店』の本質は変わりません」

 懸念していたいたずら電話の件も落着したと聞いてホッとした。10月1日から、『珈琲西武 本店』は生まれ変わる。移転した『珈琲西武 本店』のステンドグラスは、これからどんな情景を映し出すのだろう。少なくとも私は、『珈琲西武 本店』を利用し続けようと思う。