「船上の『ロミオとジュリエット』」の物語へ
後にこの「しっかりとした筋」の部分に、「船上の『ロミオとジュリエット』」というコンセプトが持ち込まれることになる。さらにキャメロン監督は、沈没する実際のタイタニック号の映像を撮影して映画に使うことも実現してしまうのだった。
キャメロン監督は「船上の『ロミオとジュリエット』」の物語を劇的に構成するため、社会的階級と沈没時の運命の両極端を象徴する人物を配置することを考えた。そこで生存率の低かった三等船室の男性と、生存率が高い一等船室の女性という正反対の立場の2人の物語として脚本を書き上げた。
「ジャック」と「ローズ」の間にいた一人の日本人乗客
この時、史実のタイタニックでは、やはり生存率の高くない二等船室に唯一の日本人客が乗船していた。鉄道官僚として留学先のロシア・サンクトペテルグルクから帰国途中だった細野正文である。
奇跡的に生還した細野正文だったが、帰国後は、女性や子供を優先せず助かったという理由で誹謗中傷にさらされることにもなったという。その汚名がそそがれることになったきっかけは、映画『タイタニック』公開に合わせて、RMSタイタニック社が、細野正文が残した遭難の手記を踏まえつつ行った調査だったそうだ。それにより細野正文は、決して卑怯な手段でボートに乗ったのではないということが明らかになったという。
『銀河鉄道の夜』に描かれた「タイタニック号の遭難」
一方、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』にタイタニック号の遭難を思わせるくだりがあるのは有名な話だ。
ケンタウル祭の夜、丘の上で孤独に佇んでいたジョバンニ少年は、突如姿を現した銀河鉄道に乗り旅に出ることになる。気がつくと隣の席には友人のカンパネルラもいる。やがてここに「氷山にぶつかって沈んだ船」に乗っていた家庭教師の青年と姉弟の3人連れが加わることになる。
青年はジョバンニたちに自分たちが体験する沈没の様子を語って聞かせる。そこに「どこからともなく〔約二字分空白〕番の声があがりました。たちまちみんなはいろいろな国語で一ぺんにそれをうたいました。」というくだりがでてくる。