死者・行方不明者約10万5000人、被災者340万人を超える甚大な被害をもたらした関東大震災から100年の節目を迎える2023年。東京都・上野の国立科学博物館では、震災と復興、現在の災害対策やその課題などをテーマにした「震災からのあゆみ~未来へつなげる科学技術展」が開催されている。
あの時、首都圏ではどのような光景が広がっていたのか――。同展覧会で展示される貴重な写真を一挙に掲載するとともに、カラー化作業を担当した東京大学大学院情報学環・渡邉英徳教授の言葉を紹介する。
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「もともと私の所属する東京大学が『震災からのあゆみ~未来へつなげる科学技術展』に監修協力するという話が進んでいまして、その過程で『保存状態がよくて精細なガラス乾板の写真があるので、それらをカラー化したり、デジタルアースを使ったビジュアライゼーションを引き受けてもらえないか』と打診があったんです。100年前の写真を扱うということはめったにないので、私としてもチャレンジだったんですが、意義深いことですし『ぜひ取り組んでみたい』と制作が始まりました」(渡邉英徳氏)
これまでにも、さまざまなモノクロ写真のカラー化を行ってきた渡邉氏。彼の代表的な取り組みの一つが、AIと手作業で写真を色補正する「記憶の解凍」プロジェクトだ。同プロジェクトは、当時を知る戦争体験者との対話やSNSのコメントなどをもとに、細部の色を微調整し、リアルな風景を蘇らせた。そのこだわりは多くの人に評価され、写真をまとめた『AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争』(光文社新書)は現在も版を重ね続けている。
しかし、関東大震災の場合、当時を知る人物はほとんど存命でない。今回のカラー化にあたって、色の微調整はどのように行ったのだろうか。
「例えば、こちらの浅草の写真ですと、絵師の人が白黒写真に絵の具で色を付けた“着彩写真”が残っていたんです。また、人々がさしている傘も現物が残されていたので、そうしたものを参考に色付けしました。また、当時描かれた油彩画も参考にしたものの一つです。もちろん絵画の場合は作者の創作も入っているので、すべてを信じるわけにはいかないですが、さまざまな資料を元に彩色を行ってきました。
阪神淡路大震災や東日本大震災を経て、日本では南海トラフ巨大地震、首都直下型地震が起こる可能性も高まっています。将来起こりうる大災害に備えるという意味でも、『100年前にこれほどの震災があったんだ』という記憶を蘇らせることは非常に大事だと考えています。
細部にまでこだわってカラー化した写真を通じて、100年前の出来事について身近に感じ、次なる災害に向けて我々には何ができるのか。どのような心がけをしておけばいいのか。そうしたことについて話し合う『コミュニケーション』が、いたるところで起きてくれれば嬉しいですね」(同上)
INFORMATION
〈記事内に掲載されている写真は以下の企画展で展示中〉
国立科学博物館 関東大震災100年企画展「震災からのあゆみ~未来へつなげる科学技術」
〈渡邉英徳氏が取り組む「関東大震災」関連のデジタル・アーカイブス〉
Tokyo 1923-2023:デジタルツインでたどる関東大震災直後の航空写真
企業資料から読み解く関東大震災:経済を支えていた企業はそのとき
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。次のページでぜひご覧ください。