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 警察が持っていこうとするのは、飛行機の降機事件とはおよそ関係が薄そうなものばかりである。国内線搭乗であるにもかかわらずパスポート、詐欺や横領事件でもないのに預金通帳、事件現場に足跡でもついているのかスニーカーなど。ただの嫌がらせか、警察権力を誇示して屈従させたいのか。

「通帳を出せ」と警察官は言ってきた。私は押入れから、通帳など入った袋を持ってきた。袋には、通帳のほかにキャッシュカード、暗証番号をメモした紙片、口座開設時の書類なども入っている。「それをこっちに渡せ」「何が押収の対象なのか言ってくれたら、それを渡しますよ」「こっちが判断するから、つべこべ言わずに全部渡せや」「だから、何が対象なのか示してくださいよ」「ええから出せや」警察官が睨んですごむ。こういうやり方で相手を怖がらせれば従うとでも思っているのだろうか。

「いえ、金銭に関わる重要なものですから、きちんと令状で対象物確認しないといけないですよ」。私は、通帳一式を持った手を後ろの方に引いた。すると、取り囲んでいた警察官のひとりが私の手をつかみ、力ずくで引っ張った。私は手を上にあげ、別の警察官が反対の腕をおさえつける。金目のものはすべて奪われた。警察がやっていることは強盗集団となんら変わらない。ただそこに権力の裏付けがあるかないかだけである。

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(写真=徳間書店提供)

「お前はもう逮捕や」と拘束された

 同僚に送ったチャットが気になっていた私は、パソコンの画面を見に行った。返信が届いていた。後はすべてやっておいてくれるとのことで、ひとまずホッとした。目を和室のほうに向けると、敷いてある布団を警察官が踏んでいる。その事実を証拠に残そうと、私はとっさにiPadのカメラを向けた。シャッターのボタンを押したその瞬間、警察官のひとりがレンズに手をかざした。よほどやましくて撮られたくないのだろう。副班長が「もう限界やぞ、取り上げろ!」と叫んだ。

 眼鏡をかけた若い警察官が、横から私の服の襟をつかみ、そのまま柔道の技をかけるように硬いフローリングの床になぎ倒した。その警察官と私は、勢いよくともに倒れ込んだ。即座に肢体を複数の警察官がおさえこむ。

 私は、仰向けにされたまま両手、両足をおさえられ、手に持っていたiPadを引きはがされた。欲しいものは全部とり終えたのか、その瞬間「捜索終了~」と班長が告げた。「お前はもう逮捕や」。その時初めて逮捕という言葉を聞いた。「ピーチの件で逮捕状が出ている」そう告げられた。四肢のおさえ込みを解かれ、起き上がると、床の上には、柔道技の警察官の眼鏡が転がっていた。警察官らが一斉に実力行使でiPadを取り上げた激烈さ。戦場のもみ合いを物語るかのように、眼鏡のつるが折れて無残な姿をさらしていた。