2018年3月、滋賀・守山市野洲川の河川敷で、両手、両足、頭部のない、体幹部だけの人の遺体が発見された。遺体の身元は、髙崎妙子、58歳(仮名)。遺体が発見された河川敷から徒歩数分の一軒家に住む女性で、長年にわたって31歳の娘・あかり(仮名)と2人暮らしだった。進学校出身のあかりは医学部合格を目指し9年間の浪人生活を経験していた。

 警察は6月、あかりを死体遺棄容疑で逮捕する。その後、死体損壊、さらに殺人容疑で逮捕・起訴に踏み切った。風呂にも一緒に入るほど濃密な関係だった母と娘の間に、いったい何があったのか――。

 ここでは、司法記者出身のライター・齊藤彩氏が、獄中の娘と交わした膨大な量の往復書簡をもとにつづったノンフィクション『母という呪縛 娘という牢獄』(講談社)より一部を抜粋してお届けする。(全2回の1回目/2回目に続く)

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母のいない人生を生きる

 事件は、助産師学校の入学試験に落ちた翌日、1月20日未明に起きた。

 母はLINEゲームをしながら、娘を激しく叱責していた。警察がのちに母のスマートフォンを調べ、20日午前1時56分にディズニー ツムツム、2時6分にLINEバブル2、2時16分にLINEポコポコで遊んでいたことが分かっている。

 母はひとしきり娘を罵ると、マッサージをするように命じた。娘は、母がマッサージを受けながらいつものように寝入るのを見て、かねて用意していた凶器で、その首筋を刺した。

 あかりは午前3時42分、ツイッターに「モンスターを倒した。これで一安心だ。」と書き込んだ。あかりにとって、犯行は、母から解放され、母のいない自分の人生を生きるためどうしても必要な手段だった。  

 翌日、あかりはホームセンターで遺体を解体するための工具を買っている。その翌日、髙崎家の玄関のチャイムが鳴った。玄関にいたのは阪上穂波(仮名)。母が行きつけのスーパー銭湯で仲良くなった友人で、片手に袋を下げていた。

「こんにちは。これ、2人で食べてね。お母さんは元気?」

「ありがとうございます。いまは留守にしていますよ。母に伝えておきますね」

「ありがとう。お母さんにもよろしくね」

 穂波が帰ってしばらくすると、あかりは母のスマートフォンを取り出し、穂波宛にLINEメッセージを打った。

 あかりからビアードパパのシュークリームを頂いたと連絡もらったよ☆有難う♪初めてフォレオに行ったんだね~☆楽しかった? 

 …実は昨日から山口県の岩国に居るんだ。叔母がクモ膜下出血で入院してて、昨日退院したんだけど後遺症が残ってしまってね…。暫く生活をサポートすることになったんよ…。いつ頃帰れるかはわからないんだけど、帰ったら連絡させてもらうからね~♪  

 母のスマホの暗証番号は知っていたし、メールでの言葉遣いは熟知していた。不審がられることなく、穂波とやりとりを重ねていった。