2018年3月、滋賀・守山市野洲川の河川敷で、両手、両足、頭部のない、体幹部だけの人の遺体が発見された。遺体の身元は、髙崎妙子、58歳(仮名)。遺体が発見された河川敷から徒歩数分の一軒家に住む女性で、長年にわたって31歳の娘・あかり(仮名)と2人暮らしだった。進学校出身のあかりは医学部合格を目指し9年間の浪人生活を経験していた。

 警察は6月、あかりを死体遺棄容疑で逮捕する。その後、死体損壊、さらに殺人容疑で逮捕・起訴に踏み切った。風呂にも一緒に入るほど濃密な関係だった母と娘の間に、いったい何があったのか――。

 ここでは、司法記者出身のライター・齊藤彩氏が、獄中の娘と交わした膨大な量の往復書簡をもとにつづったノンフィクション『母という呪縛 娘という牢獄』(講談社)より一部を抜粋してお届けする。(全2回の2回目/1回目から続く)

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あなたは噓を言っている

 この日の夜、若い当番弁護士が面会に来たが、私選になると告げられたために選任せず、翌日の夜に面会した国選弁護士を選任した。

 逮捕直後から、警察官や検察官はあかりの供述を引き出そうと手を変え品を変え「落とし」にかかった。

 娘が助産師学校の入学試験に落ちたことを悲観し、突発的に自分の首に包丁を当てて自殺したというあかりの説明は、どう考えてもおかしい。あかりが母を殺害し、遺体をバラバラにしたのではないかと疑うのは当然だ。長年の浪人生活で母娘には強いストレスがかかっており、動機はある。

 あかりは死体遺棄容疑で16日間取り調べられたあと、6月21日に死体損壊容疑で追送検された。取り調べの間、あかりは「母は自殺した」というストーリーを変えなかったが、警察官は納得しない。

「包丁で首を傷付けて自殺したなら、血液が大量に飛び散ってる。血痕の付着状況から考えて絶対にありえないよ」

「お母さんにしてみれば、前からあなたには期待を裏切られつづけていたんだから、助産師学校の不合格がお母さんに突発的に自殺を図るほどの強い精神的衝撃を与えたとは思えない」

「あなた看護師でしょ? とっさに助けたり通報したりするでしょ普通。死体の解体って犯罪だよ。『責められるのが嫌』だからすることじゃないんだよ。あなたが殺したから解体したんだよ」

「あなたの供述には、細部にわたり具体的で詳細な部分があるけど、お母さんが包丁を取り出す場面や自傷した場面とか、記憶に残っていて当然な大事な場面で曖昧だよね。自殺したっていうのが噓だからでしょ」