「私は学生のころに友だちと富士山にご来光を見に登りました。あかりさんにもぜひ実際のご来光を見てほしいです」
そう言ってあかりの気持ちをほぐそうとしたという。検察官が率直な疑問を口にしたこともあった。
「あなたはストレス解消でネット検索(刃物で自殺、など)をしたって言うけど……僕はたとえばお酒が好きだから飲み屋とか、そういうのを調べるけど」
否認の法廷
留置所での取り調べの間、決して殺人を自ら告白しようとしないあかりに、警察も検察も手を焼いていた。結局検察は殺人容疑での立件をいったん諦め、6月26日に死体遺棄罪、死体損壊罪での起訴に踏み切る。逮捕から21日後のことだった。あかりは「最大40日」の取り調べを覚悟していたが、思ったよりも短期間で終わった。
通常なら起訴されれば3週間程度で警察署内の留置場を出て拘置所へ身柄を移されるが、あかりは殺人罪での追起訴の可能性があり、取り調べの必要があることから、起訴後も身柄は留置場に置かれたままだった。
起訴から約2ヵ月後の8月21日、死体遺棄罪と死体損壊罪の初公判が大津地裁で開かれた。検察はあかりが母・妙子を殺害したことを強く疑っていたが、この日までに殺害の証拠を固めて逮捕・起訴することができず、死体損壊・遺棄罪のみの公判となった。出廷したあかりは、そのときの印象をこう書いている。
うおお、人めっちゃいる……!! という、驚きと緊張。間違いなく現実だと頭で分かっていながらも、ドラマの世界に迷い込んだような不思議なふわふわとした非現実感
検察官が起訴状を読み上げる間、あかりは何度もうなずきながら聴いていた。罪状認否に移ると、「事実に間違いはないです」と認め、続けて、「ですが、私は母を殺していません」と話した。
死体損壊・遺棄については全面的に認めるが、殺害はあくまでも否定したのだ。今後の殺人罪での追起訴の可能性について裁判長から訊ねられた検事は、
「9月中に起訴の可否を判断します」
と述べ、閉廷となった。逮捕から2ヵ月以上が経っても、滋賀県警、大津地検はあかりの殺人容疑を立証するのに苦戦していた。
逮捕翌日、留置場であかりが「創作」した物語が、奏功するかもしれなかった。