ヒトミさんは実家暮らしの40歳独身。会社員生活ももうすぐ20年のベテランですが、本作は、タイトル通り、そんなヒトミさんの恋のお話です。
ヒトミさんに限らず、一話完結の漫画の前後にも彼らの暮らしがあると思いながらいつも机に向かっているので、今回は、40歳の彼女ならどんな恋をするんだろう? というところから物語を考えました。
40代の恋
──「40代の恋」と聞くと、酸いも甘いもかみ分けた、大人の恋を想像します。でも「ヒトミさんの恋」には、10代、20代の恋愛のように、ドキドキしてちょっと切ない……という甘酸っぱさを感じます。
大人の恋、といったところで、どの恋も初めて出会うものですよね。だから、いくつになっても右往左往して当たり前だと思います。
──たしかに、ヒトミさんは、第一章のはじめから右往左往していました。第一章は、14歳年下の後輩・マカベくんと軽く食事をした後、店を変えて軽く飲んで別れるところから始まるのですが、「ナニこの状況?」「いやいやいや ないないない」と全力で恋の可能性を否定するヒトミさんが、この後どうなっていくのか、とても気になりました。このジタバタしている時点で、すでにヒトミさんは恋に落ちているのでしょうね。
「恋に落ちる」という言葉がありますが、恋は染みてくるものなのかもしれません。
ヒトミさんも最初のうちは、
「いやいやいや ないないない 26歳だよ? 後輩だよ?」
「こっちもないけど 向こうもないわーっ」
と真っ向から否定するのですが、やがてじわじわ染みてくる。それが恋なのかもしれないと思います。
──「恋は染みてくるもの」。素敵な表現ですね。夜、一人になった自分の部屋で、あれこれ言い訳を考えたり、美容院で鏡に映る自分の姿に年齢を感じたりするヒトミさんは、まさに恋が少しずつ染みているようにも見えます。
沢村家のシリーズではこれまで恋愛について描かれたことはなかったと思いますが、こんなふうに恋をするヒトミさんの姿を見て、別の世界の人ではなく、急に身近な存在に思えてきました。自分と同じように恋もするし、くよくよ悩んだりするヒトミさんが、なんだか愛おしいです。