2023年9月14日、18年ぶりにセ・リーグ制覇の栄冠を手にした阪神タイガース。そのとき、歓喜に湧くグラウンドではある選手のユニフォームが掲げられていた。背番号「24」。今年7月に脳腫瘍で亡くなった横田慎太郎選手のものだ。
惜しくもこの世を去った彼が現役最終試合で見せたスーパープレーを思い出したファンも多いだろう。横田選手の生前の証言によると、実はあのプレーは“予期していなかったさまざまなことが重なった結果”なのだという。いったいどういうことなのか。
ここでは、同氏の著書『奇跡のバックホーム』(幻冬舎)の一部を抜粋。引退試合で走者を刺殺した“奇跡のバックホーム”の舞台裏について紹介する。(初出:2021/07/19)
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プロ6年間のベストプレー
「センターに入れ!」
1096日ぶりの公式戦。タイガースが2対1でリードしていた8回表、ツーアウト二塁の場面で平田監督に命じられ、僕は緊張して守備位置に向かいました。
「よし、来い!」
そうしたら初球です。大きなフライが本当に飛んできた。
「うそだろ……」
「代わったところに打球は飛ぶ」とはよく言われますが、まさかいきなり来るとは思っていなかったので、ちょっと焦りました。
打った瞬間、どんな打球かは感覚である程度わかりましたが、ボールは見えていませんでした。高く上がったボールは見えにくいのです。ただ、これは見えていても届かない打球でした。ボールは僕を越え、センターオーバーの二塁打。同点になりました。
代走が出て、バッターは6番の塚田さん。
その2球目、塚田さんが打ち返した打球は、僕の前にライナーとなって飛んできました。よりによって、いちばん見えにくい打球が飛んできたのです。
正直、一瞬思いました。
「これが最後のプレーかよ……」
それでも、気がつくと僕は足を前に踏み出していました。そうしてボールをキャッチすると、次の瞬間、大きく右足を踏み出し、ダイレクトでキャッチャーに送球しました。
ボールはノーバウンドでキャッチャーのミットに吸い込まれました。タッチアウト。
鳥肌が立ちました。プロ生活6年目の最後に、生涯ベストプレーを見せることができたのです。
おこがましさを承知で言えば、このバックホームがタイガースを奮い立たせたのかもしれません。同点となった試合は8回裏、先頭打者の江越さんのツーベースを皮切りに、板山さんがレフト前に運んでチャンスを拡大。タイガースが2点を追加して4対2となりました。そして、9回のソフトバンクの攻撃を無失点で抑え、タイガースが勝利しました。
僕も8回に引き続き守備につきましたが、幸か不幸か、今度は打球は飛んできませんでした。
こうして僕の最後の試合は終わりました。