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「若いから夜の商売あるよね」虐待の後遺症で接客できない女性が行政の生活相談で浴びた信じられない言葉

source : 提携メディア

genre : ライフ, 社会

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支援者に教えてもらった「夜の商売あるよね」は人権侵害

所持金は1100円にまで落ち込み、寮費も払えなくなった。卒業まであと1年。その期間をもちこたえようとインターネットで調べるなどして、若者向け自立援助ホームに相談し、ホームが安く借りてくれたアパートに1年の期限で住むことができた。

2020年4月からは緊急事態宣言下で授業がなくなり、やがてオンライン授業が始まり、対面授業はないままだったが、2022年3月に卒業はできることになった。卒業したら奨学金はなくなる。行政の生活相談に行くと「若いんだから夜の商売とかあるよね」と言われた。たまたま知り合った水商売関係の女性から、冒頭の女性相談会に行けば食料をもらえる、と聞いて出向いた。

そこで支援者につながり、初めて、「夜の商売もあるよね」が人権侵害発言だと知った。東京都内で生活保護を受けられるよう申請に同行してもらうこともできた。ところが、福祉事務所の窓口では、元の居住地で生活保護を受けるように言われた。交通費として1100円渡され、これで行けるところまで行き、そこの福祉事務所から交通費をさらに受け取る形でつなぎながら戻ればいい、という。支援者の抗議でこの指示は撤回させることができ、生活保護が利用できるようになった。

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「女性相談会で出逢った支援者が伴走を続けてくれたおかげでなんとか乗り切れた」とユリは振り返る。家族の生活は世帯主の責任、という社会で、公的な生活支援や住まいの確保は手薄だ。それが、すでに支える力を失った家庭にユリを縛り続け、飛び出した後も不安定な生活を生み出し、コロナ禍がそこを直撃した。

「扶養義務」と引き換えに家庭という密室で抑えられる母子

「扶養」と引き換えに管理権を委託された「世帯主」の父や、父や世間の意向に沿うため、子どもを懸命に「しつけ」ようとする母の姿が、背景に見え隠れする。家庭という密室では、これを止める監視者はいない。経済的な貧富と関係なく、それらが少女たちを抑えつける。それでも、外には安心して出ていける場所がない。だから、そこにいるしかなかった。