マイナカードと健康保険証の一体化が混乱を極めている。高齢者の不安を煽るメディア、若者たちの絶望……私たちの眼前に広がるのはグロテスクな社会の深淵だ。橘玲氏が明かす“言ってはいけない”マイナ騒動の真実。(全2回の2回目/前編を読む)
毎年600万件のトラブルが
医療のデジタル化が機能するには一定数以上の利用者が必要になる。紙の保険証を廃止しなければならない理由は、そうしないといつまでも医療機関が対応しようとしないからだ。「デジタルと紙の保険証を併用し、徐々に切り替えていけばいい」との主張もあるが、この「切り替え」にいったい何年(あるいは何十年)かかるのか。
アナログの情報をデジタルにするには、どうしても手作業が必要になる。そのため自治体や健保組合に過度の負担が生じ、それがミスを生んでいる。政府は「総点検」を指示しているが、これではさらに現場を疲弊させるだけだろう。
だとしたら、最初にこうした事情を国民に説明し、「一定数の誤登録は仕方ないが、それで不利益が生じることはない」と約束すべきだった。膨大な手作業を、わずかなミスもなく完璧にこなさなくてはならないというのが非現実的なのだ。
メディアも(おそらくは)このことを知っていながら、登録担当者の失策をこの世の終わりであるかのように大々的に報じている。他者にこれほどの完璧を求めながら、新聞紙面にしばしば「お詫びと訂正」が載るのはどういうわけなのか。
健保組合などでの入力ミスで、マイナ保険証に別人の情報が登録されたケースは7000件あまりとされる。それに対して厚労省の担当者は国会で、紙の保険証による手続きミス(医療機関への返戻)が年間600万件発生しており、オンラインの資格認証システムの導入によって、これが劇的に減ってきていると答弁した。
7000件の誤登録(マイナ保険証の利用登録6500万件の0.01%)を一面で大きく報じる新聞は、毎年600万件起きているトラブルをなぜ無視しているのか。