いまや世界で最も注目され、議論の的となっている起業家イーロン・マスク。だが、プライベートでは10人の子どものパパであり、意外に思えるかも知れないが子煩悩でもある。日本でも発売されるなりAmazon1位となった公式伝記『イーロン・マスク』(ウォルター・アイザックソン著、井口耕二訳)から、その破天荒でユニークな親子関係エピソードを紹介する。
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父親・イーロン・マスクの子連れ出勤
猛烈で有名なワークスタイルからは想像しにくいが、じつは“子連れ出勤”派であるイーロン・マスク。そうなったのには、現在3歳である愛息Xくんの存在が大きい。
アーティストのグライムスとのあいだに生まれたXくんは、信じられないくらいに愛らしい。Xくんがいると、マスクは心が安らぎ、幸せを感じるという。
それゆえ仕事場にも一緒に連れている。長い会議では膝にのせる。テスラやスペースXの工場では肩車で歩く。買収先であるツイッター(現X)のラウンジでは好きに遊ばせる。夜中の電話会議では、近くで好きにおしゃべりをさせるといった具合だ。
ロケット打ち上げ動画もマスクとXくんとで繰り返し見るので、Xくんは1から10まで数えられるようになる前に、10から1へとカウントダウンできるようになった。そんなマスクとXくんは、性質も似ているところがあるという。お互いの存在を愛でつつ、相手の空間を犯さない、という関係性をふたりは結んでいる。
危険を怖がらない、というのもマスクとXくんの共通点だ。
今年4月のスターシップ打ち上げ日のこと。夜の屋外パーティで、Xくんはたき火に寄っていったという。マスクがそっと引き戻すと、Xくんはじたばたキーキーと大騒ぎする。マスクは仕方なく自由にさせ、こう語ったという。
「子どものころ、私も、火で遊ぶなと両親に言われました。だから、マッチを持って木の陰に隠れ、火をつけたりしてました」
「ツイッター買収に反対」
ちなみにXくんの上には、元妻の子どもが5人いる。マスクは、ときには彼らに仕事の話もしたりする。
ツイッター買収が決まった時期に、息子4人と食事をしたときのことだ。ツイッターをあまり使わない世代の子どもたちは、マスクが買収しようとする理由が理解できなかった。子どもたちからの質問の端々からは、ツイッターを買っても……との思いが伝わってくる。マスクは、デジタル空間における公共性を力説したのち、こう加えた。
「そうじゃなきゃ、2024年のトランプ再選なんてまず無理だろう?」
これはマスク一流の際どいジョークなのだが、子どもたちは真意が分からず、ぎょっとなったという。
「冗談だよ、冗談」
マスクが笑って、ようやく本当の冗談だと伝わった。夕食が終わる頃、子どもたちもツイッター買収の理由を基本的に理解したが、納得はしていなかった。
「なにもわざわざいざこざを呼び込まなくても、と思ったようです」
とマスクは言う。もちろん、子どもたちが正しい。ついでに言えば、父親がわざわざいざこざを呼び込むタイプであることも、子どもたちは分かっていた。