買収先のツイッター社に乗り込み、3週間で社員の75パーセントをリストラしたイーロン・マスク。過酷な経営判断を行えるのは、もともと共感力があまりないからとされている。けれどもそんなマスクにも、意外な”弱点“があった――。
発売されるなり世界的ベストセラーとなった公式伝記『イーロン・マスク』(ウォルター・アイザックソン著 井口耕二訳)から、プライベートでの知られざる素顔を紹介する。
▼▼▼
“ジキルとハイドのような”風変わりなエンジニアの父親から、精神的な虐待を受けて育ったイーロン・マスク。けれども、この父親とマスクとでは、決定的に違うところがある。それは、マスクは子どもを愛し、子どもが大好きだ、ということだ。
大学時代に知り合った最初の妻ジャスティンとの待望の赤ちゃんは、男の子だった。しかし悲しいことに、生後10週のときに亡くなってしまう。ベビーベッドで気づいたら息をしていなかったという。乳児突然死症候群だった。
マスクは泣いた。ただただ泣いたという。マスクの母親メイはこう振り返る。
「オオカミのように泣いていました」
「感情を表す私が、彼(マスク)にはうっとおしかったようです」
マスクが亡くなった息子の部屋を見られるようになるまで3週間もかかった。マスクは死別の悲しみにじっと耐えた。そして慰めに訪れた大学時代からの友だちと、ひたすら映画を見たりビデオゲームをしたという。長い沈黙のあと、「どんな感じだ? 大丈夫か?」と尋ねられても、マスクは話にまったく応じなかった。友だちは次のように推測する。
「長い付き合いなので、なにを考えているのか、表情からだいたいわかります。あの件には絶対に触れないと(マスクは)心に決めていましたね」
感情をすべて表に出していたジャスティンは、当時をこう振り返る。
「感情を表す私が、彼(マスク)にはうっとうしかったようです。心を表に出しすぎる、感情で人を操ろうとしていると言われました」