イーロン・マスク率いるテスラは、世界一の時価総額(自動車会社)を誇る。じつはテスラは、日本企業との社運を賭けた提携を成功させ、躍進を遂げてきた。日本人社長を相手にした“接待の席”で、破天荒キャラのマスクは、どのように振る舞ったのか。発売初日にAmazon1位となった公式伝記『イーロン・マスク』(ウォルター・アイザックソン著 井口耕二訳)から、知られざるトップ会談エピソードを紹介する。

©️時事通信社

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トヨタの豊田章男社長をロサンゼルスの自宅に招き…

 工場の現場をこよなく愛するイーロン・マスク。生産を担う工場や組立ラインを見て歩くことが大好きで、修羅場になると工場に泊まり込んでひたすら指揮をすることも多々あるという。

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 そもそも、設計から生産を一貫して行うのがテスラの強みだ。なぜなら日々、改善のアイデアを反映できるからだ。そこには、生産工程を掌握したい、というマスクの強迫的な性質も関係している。マスクとしては、「車を作る」ことと同じくらい「車を作る工場を作る」ことも重要なのだ。

 2010年、そんなマスクにとって大きなチャンスが訪れる。トヨタが、かつてGMと共有していたカリフォルニア州フリーモントにある工場を売りに出したのだ。シリコンバレーの外れにあり、テスラ本社からは車で30分という好立地である。

初の公式伝記「イーロン・マスク」の書影

 マスクはトヨタの豊田章男社長をロサンゼルスの自宅に招き、ロードスターに乗せた。そして、資産価値10億ドルといわれたこともある工場を4200万ドルで買うことに成功する。さらには5000万ドルの資本参加も、トヨタから引き出した。

 マスクはこの工場を改修するにあたり、工場のど真ん中に自分の机を置いた。周りに壁はなかった。机の下には枕が置いてあり、いつでも泊まれるようにした。技術者を集め、組立ラインを見て歩くこともよくした。

 マスクはテスラの株式を公開した。テスラは40パーセント以上も値上がりし、2億6600万ドルを調達した。18カ月前にはあと一歩で倒産するところだったテスラは、米国で一番話題の新会社となったのだ。