この地を買春目的で訪れる好事家たちのなかでは名物立ちんぼとして知られる老女の存在は、1ヶ月前、この地の事情にめっぽう詳しいライターの仙頭正教から教えてもらった。僕が接触したのは朝9時ごろのことだ。
「何をしてるんですか?」
正直に言おう。仙頭からのお墨付きがあっても、僕はまだホームレスではないのかと思っていた。だから普通は「遊べるの?」と声をかけるところ、こんな問いかけになった。
すると、「えっ、はい、ホテルですか?」と言って、老女は満面の笑みを浮かべた。5千円、いや3千円でもと売春の交渉をしてきた老女に、たった3千円でカラダを売ることに軽く動揺しつつ、代わりにホテルでのインタビューと写真撮影を了承してもらう。こちらの意図を聞かずに売値を提示してくるとは老女もなかなか手際がいい。普通は立ってもいない老女に買春交渉などするはずもないのに、である。
本人にその気はないのかもしれない。しかし周囲と異なるスタイルで客待ちすることが注目を集め、ときには僕のように同情を誘い、ひいては声かけすることになり売春は成約。そうして新規客を獲得していること、その積み重ねで常連客を獲得して糊口を凌いでいることが後々、わかってくるのだ。
いつもは風呂場で客の体を洗ってあげている
眠らない街といわれる歌舞伎町にあって、その日の朝は人けがまばらだった。僕は老女と、歩いてすぐの距離にある古びた外観のラブホに入る。
本人にもあらかじめ伝えたように、こちらの目的はあくまで取材である。が、よくは理解していなかったのだろう。その証拠にインタビューをしようとテーブルの上にテレコを出して録音ボタンを押す僕に対して老女は、「先にお湯をためてきますね」と言って風呂場に向かい、キュッと蛇口を捻る音をさせてから戻ると、目的はアレでしょと言わんばかりに着衣を脱ぎ始めるのだった。
「名前をお教えいただけますでしょうか」
「久美(仮名)です」
「歳は?」