イーロン・マスクが経営する世界一の自動車会社テスラ(時価総額)。しかし過去に2度、倒産の瀬戸際にあったという。2度目となる倒産危機では、マスク自ら指揮をとるべく生産現場の工場へ乗り込んだーー日本でも20万部を突破した公式伝記『イーロン・マスク』(ウォルター・アイザックソン著 井口耕二訳、)から、工場現場での熾烈エピソードを紹介する。
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テスラが2度目の倒産危機を迎えたのは、2018年のことだった。テスラ株に史上最大の空売りが浴びせられるなどで、逆境に置かれていたのだ。
そんななか、マスクは不可能に挑戦するかのように、車の生産台数を、週2000台から週5000台に大幅アップすると決定。ウォールストリート(金融機関)にもそう約束をしてしまう。
マスクは週5000台に必要な部品と材料の発注をし、背水の陣を敷いた。もし予定通りに生産できないと、テスラのキャッシュフローは滞って、倒産の危機に陥る。こうして、車の組み立て工場での修羅場がはじまったのだ。
「工場の設定というのは、どうしてこうアホらしいのかね」
もともと工場が大好きなマスクは、みずから現場指揮をとるべく、クマのような足取りで工場をうろつき始めた。
あるときは車の下に夜勤シフトとともに潜り込み、ボルト止めの作業を観察した。なぜ4本必要なのかと疑問を出し、2本で試してみる。
また、ボルトを締めるロボットアームの動きが遅いのを見ると、「オレでも、もっとすばやくできるぞ」と、技術者を呼び確認する。果たして上限の20パーセントの速度で、しかも逆方向に2回転してからボルトを締める、との設定になっていた。
「工場の設定というのは、どうしてこうアホらしいのかね」
そう言うと、マスクは制御コードを書き換え、逆回転を無くし速度を大幅アップさせた。