3大会ぶりとなるWBC優勝の原動力となり、MLBでも今シーズンのMVP受賞がほぼ確実視される大谷翔平。彼の代名詞となった「二刀流」での飛躍が決定的となったのは、「1番・投手」で起用された2016年7月3日のソフトバンク戦だったという。当時日本ハムで監督をつとめていた栗山英樹氏、そして交流のある森保一サッカー日本代表監督のマネジメント論に迫った『森保一の決める技法 サッカー日本代表監督の仕事論』(幻冬舎)より一部抜粋。実際にオーダーを組んだ栗山氏が7年前の試合を振り返る。
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「二刀流は無理」「プロ野球をナメている」…名だたるOBたちの批判
2016年のパ・リーグMVPには「二刀流」の大谷が選ばれた。投げては10勝4敗、防御率1・86。打っては打率3割2分2厘、22本塁打、67打点。
いわく、「二刀流は無理」。いわく、「プロ野球をナメている」……。名だたるOBの批判を、実力で封じてみせた。
二刀流をチームにどういかすか。栗山に問われたのは投打という2つの資産の運用法だった。
そのひとつの回答が、7月3日、敵地での「1番・ピッチャー・大谷」だった。日本ハムは首位ソフトバンクに7・5ゲーム差まで迫っていた。
プレーボールから5秒後、大谷は中田賢一の初球を振り抜いた。放物線を描いた打球は右中間スタンドに突き刺さった。まるで劇画のような一コマだった。
──この起用の真の狙いは?
「翔平はピッチャーとして初回の入り方が悪いんです。だったら1番でホームランでも打ってくれれば気持ち良くスタートできるだろうって。 それにいきなり翔平が打席に立ったら、相手も投げづらいでしょう。 あの頃、ウチはひとつの負けが命取りとなるような状況でした。翔平を、どう使えば相手は嫌がるか。そのことは常に意識していました」