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《栗山英樹は見た》「二刀流はムリ」「プロ野球をナメている」…批判され続けた大谷翔平が覚醒した7年前のソフトバンク戦

『森保一の決める技法 サッカー日本代表監督の仕事論』より#1

2023/10/02
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 栗山が大谷に「1番・ピッチャー」を伝えたのは、前日の練習中だった。大谷にとっては初めて経験する打順だったが、投げる前に打席が回ってくるので「やりにくさはなかった」という。その点も栗山は考慮していたのだろう。

栗山が監督の立場を忘れて発した「スゲェ!」

 節目となる自身最多タイの10号。ダイヤモンドをゆっくり1周したのは、投手としての体力を温存しておくためだった。

 投げても、右腕は冴え渡った。5本のヒットと2つの四球を与えたものの、要所を締め、10奪三振で8回無失点。試合は2対0で日本ハムが勝った。

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 自身7連勝で8勝目。チームは10連勝となり、シーズン初の2位に浮上した。

 仰天オーダーを組んだ理由を、栗山はこう説明した。

「先入観にとらわれず、勝つためには、どういうかたちがいいかをずっと考えていた。二刀流は、あくまでもチームを勝たせるための戦術。敵地ということもあり、インパクトのある勝ち方をしたかった」

 だが、さすがに先頭打者ホームランを目のあたりにした瞬間は、「スゲェ!」と監督の立場を忘れて驚きの声を発してしまったという。

“ユニコーン”に込められた意味

 蛇足だが第5回WBC、決勝で日本に敗れた米国のマーク・デローサ監督は、試合後のインタビューで、大会MVPに選出された大谷翔平を「ユニコーン」と評した。

©文藝春秋

 ユニコーンとは“一角獣”とも呼ばれる架空の動物で、唯一無二を意味する。

 ビジネスの世界では、評価額が10億ドル(約1313億円)以上の、主に未上場のスタートアップ企業を指す。

 ベーブ・ルース以来といってもいい二刀流を引っさげて渡米し、米国を席巻したばかりか、23年のWBCで圧倒的なプレゼンスを発揮した大谷こそは、この国が生み出した“最強のユニコーン”といっていいだろう。

 今にして思えば、2016年7月3日、福岡で栗山が「1番・ピッチャー」として起用した日、ユニコーンは誕生したのである。

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