8月が終わるころには、日常でも体調が悪い日が出てきて、これは本格的になんとかしなければならないと強く思い、対局以外の仕事をしばらく完全にお休みすることにした。
自分を信頼し、依頼していただいている仕事をお断りするのは心苦しく、私自身も残念なのだが、現状では責任をもって仕事をするのが難しい。実際にこれまで何度かご迷惑をおかけする事態にもなってしまったのだが、その時は周りの方々に助けていただいた。事情を説明した際には「体調が回復したら、またお願いします」と、各所で優しい声をかけてもらい、人の温かさが心にしみた。
今が休憩するタイミング
しばらくは対局だけする、無駄にカッコよく言えば、トーナメントプロに徹することになるわけだが、そのために私がしていることは、「ひたすら将棋の勉強!」ではなく、規則正しい生活を心がけることである。
朝起きて、日光を浴びて、ごはんを食べて、歩いて、お風呂に入って、夜寝ること。
至極当たり前な人間的な(でも私がやってこなかった)生活を意識的に送るのだ。
最初に症状のようなものを感じた5月は、ちょうど亡くなった母の諸々の整理が終わった月だ。自覚がなくても、将棋と仕事と育児と、いろいろなことを一気にこなすのに、少し疲れていたのかもしれない。自分で気が付くよりも前に、身体が、止まることを望んだのだ。
12歳で女流棋士になって、常に全力で、とは言えなくても、たくさんの人生の壁を自分なりに20年以上頑張って超えてきた。たぶん、ここが一回休憩するタイミングなのだ。回復までにどれくらい時間がかかるかは分からないが、まぁ焦らずに、少しゆっくりと過ごそうと思う。
自分の選ぶ道を長く続けるのも大変
5年くらい前だろうか、女流棋士の大先輩と健康について話していた時に「何かしら身体に不調が出始めてからが、また勝負だから」とイタズラっぽくささやかれたのを思い出す。その頃にはふんわりとしか分からなかったことが、自分のこととなると良く分かる。若手は中堅になって、ベテランになる。その時々にしか見えない、想像ではまかなえないものは、やはりあるのだ。
女流棋士としての道は、自分の選ぶ道は、歩けば歩くほど続いていく。一番テッペンをがむしゃらに目指す若手時代とはまた違い、長く続けるのも大変で、エライことなのだなぁ。
9月になって気温もようやく落ち着いてきた。
今までは自転車で一番近いスーパーに行っていたが、最近は少し先の八百屋さんに歩いて買い物へ行くことにしている。途中で調子が悪くなりそうになったら、空を見上げる。青い空が綺麗だなー、と思い、また歩く。鼻からゆっくり息を吸い込むと、もう秋のにおいがする。