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 大谷選手はそんな私の悩みを知ってか知らずか、私を見つけるや声を掛けてきてくれたのです。

「ツルさ~ん、お久しぶりです」 

「お、しょ、翔平……」

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「ところで、何でブルペンキャッチャーしてるんですか?」

「栗山監督に言われて、ピッチャーの球を受けることになったんだよ。よろしくな」

 何も変わっていなかった。杞憂でしたね。すぐ距離を縮めてくれて、話し掛けやすい雰囲気を作ってくれました。野球選手としての技術はもちろん誰しもが認めるところですが、彼のことを悪く言う人は皆無です。どうすればこんなに素直に育つのか、同じ社会人野球チーム出身の縁で、大谷選手のご両親に「子育て論」を訊いてみたいものです。

©文藝春秋

敵の打者までが「大谷の将来性を伸ばさなきゃ!」

 プロ1年目の大谷選手は、投手で13試合3勝0敗、防御率4.23の成績を残しています。ちなみにダルビッシュ投手の1年目は14試合で5勝5敗、防御率3.53でした。

 私は大谷選手の「プロ初登板キャッチャー」「プロ初勝利キャッチャー」でした。プロ初登板、初先発のヤクルト戦でストレートは157キロをマークし、5回2失点(5月23日=札幌ドーム)。プロ初勝利の中日戦で5回3失点(6月1日=札幌ドーム)。 

 変化球はカーブ、スライダー、フォークボールを持っていました。

 最大の長所はストレートが速いことです。ただストレートも変化球も、ボールの縫い目に指がかかった「いい球」は少なく、「スッポ抜け」が多かったのです。

 だから、その試合その試合で「どれをカウント球にしよう」「どれを決め球にしよう」と、こちらも手探りの状態でした。もちろん、すべての球に「超一流への伸びしろ」を感じました。しかし現在の圧倒的な投球を10割とするなら、当時は1、2割に過ぎません。1年目の完成度という点においては、ダルビッシュ投手のほうが断然高かったです。