<初めに断っておきたい。

 この手記は、無罪を訴えるためのものではない。もちろん自らの無罪を信じている。だがそれは、これから行われる法廷の場で争うべきものである。

 今回、保釈中の身でありながら筆を執ったのは、「人質司法」という問題を、自らの経験から指摘したいと考えたからだ>

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 こう訴えるのは前KADOKAWA会長の角川歴彦氏(80)である。角川氏は昨年10月、東京五輪のスポンサー契約を巡る問題で、東京地検特捜部に贈賄の罪で起訴された。以来、226日間にわたり東京拘置所に勾留され、ようやく保釈が認められたのは2023年4月末のこと。現在、公判を待つ身だ。

 その角川氏が今回、「文藝春秋」11月号(10月10日発売)に、思いの丈を綴った手記を寄稿した。保釈中の人物がメディアに登場し、事件について記すのは極めて異例のことだ。

保釈中の身ながら筆を執った角川氏 ©文藝春秋

ウェスティンホテル東京のツインルームで逮捕される

 老舗出版社を巡る事件は2013年、東京五輪の開催決定から始まった。

 KADOKAWAは大会スポンサーを目指し、東京五輪大会組織委員会理事の高橋治之氏の知人に相談。知人の会社とコンサルタント契約を結んだ。そして2019年、大会組織委とスポンサー契約を結び、公式ガイドブックなどを発売した。大会翌年、東京地検特捜部はKADOKAWAが知人の会社を通して高橋氏に賄賂を支払ったと見て、角川氏とKADOKAWAの担当者に任意で事情聴取。そして9月14日、角川氏を逮捕したのだった。その時の様子はこう綴られている。