4冠投手が抱えた不安と葛藤
「和田さん、相談があります。僕、このままでいいでしょうか?」
オールスターゲームが始まる前、山本由伸はタイミングを見計らい和田毅のもとへ駆け寄った。
「和田さんのように徹底的な走り込みをせずに長く現役を続けることはできるでしょうか?? このままのスタイルで長く続けられるのか……和田さんにどうしても聞きたくて」
オールスターゲーム前の練習でも懸命に走り込み、調整を続ける和田毅の練習方法を具に見ていた。見入っていた。そして、山本は彼に心境を打ち明けた。オリックスのエース、日本球界が誇る4冠投手でさえ、未来に不安があった。このままのスタイルで怪我をせず、高いパフォーマンスを維持しながら現役を長く続けられるのか葛藤していた。
パ・リーグ最年長投手であり、メジャーも経験し、来季も現役続行となった42歳和田毅に山本由伸はどうしても聞きたいことがあった。松坂世代最後の一人であり球界のレジェンド和田毅は悩む山本にこうアドバイスを送った。
「由伸君、今のままでいい。このままのスタイルで進むべきだよ。変えなくていい」
和田毅は即答した。何も迷うことはないと日本のエースに対し、力強く、語気強く返答した。
「ほんとですか?? 走り込みやウエイトトレーニングをせずとも長く続けられますか?」と言葉を返した山本由伸。
「僕はとにかく走り込んだ。今もそう。ダルビッシュはウエイトトレーニングを中心にフィジカルを鍛え、結果を残してきた。大谷君もそうかもしれない。僕はむしろ由伸君に新たなスタイルを作り上げて欲しい。新たなスタイルを野球界に見せて欲しい。徹底的な走り込みや筋力トレーニングを行うのではなく、体のしなりや柔らかさ、投げることで鍛えられ、高いパフォーマンスを残し、現役を続けるという新たな形を。良いと思う、今のままで。むしろ憧れるよ」